《本記事のポイント》
- 中国の"対米ソフト路線"への転換 習政権に何があった!?
- 「反習近平派」が政権の主導権を握ったのか?
- アメリカも中国の軟化を感知
中国が昨今、突如、「戦狼外交」(対外的強硬路線)をやめ、関係がぎくしゃくしていたアメリカに秋波を送るかのような動きを取っている。
中国の"対米ソフト路線"への転換 習政権に何があった!?
まず4月29日、趙立堅・外交部報道官が「米中友好」を語り始め、秦剛・駐米中国大使が「米中西部の旅が感動的だった」などと持ち上げた(本誌7月号記事「上海大感染 こんなはずでは…… 習近平の憂鬱」参照)。
次に5月10日、王岐山・国家副主席(肩書は習近平主席特別代表)が訪韓し、尹錫悦・新大統領と会談した際、何と米国代表団団長で"セカンド・ジェントルマン"(カマラ・ハリス副大統領の夫)であるダグラス・エムホフ氏と会ったという。
これらは、中国の"対米ソフト路線"への転換を物語っている。しかし習近平・国家主席はこれまで「戦狼外交」にこだわり続けていた。いったい何があったのか。
「反習近平派」が政権の主導権を握ったのか?
実は中国国内で、李克強首相の存在感が急速に増していることが注目を浴びている。周知の如く、習主席が推進する「ゼロコロナ」政策で経済は疲弊しており、李首相は4月末以降、重要会議で3回も「安定した雇用」を強調した。
そして5月25日、李首相は「全国経済安定化テレビ電話会議」(いわゆる「10万人大会」)を開催している。この経済会議に、なぜか魏鳳和・国防部長(国防相)と趙克志・公安部長(警察庁長官に相当)まで出席した。経済の停滞という緊急事態の中、「国家総動員体制」が敷かれたと見るべきだろう。
さらに27日に中央政治局会議が開催されたが、党内ナンバー3であり、政治局常務委員中、唯一の「習近平派」でもある栗戦書が、「厳格なゼロコロナ政策が国家経済を破壊し、政権の合法性を脅かしている」と痛烈に批判したという情報まで出ている(29日付万維読者網)。これが事実なら、「反習近平派」が政権の主導権を握ったことになる。
アメリカも中国の軟化を感知
中国内政や外交方針が転換したシグナルを、アメリカも受け取っているように見える節がある。
李首相の「10万人大会」開催を受けて、翌26日、ブリンケン米国務長官が、ジョージ・ワシントン大学で"奇妙"な講演を行ったのだ。そもそも「ロシア・ウクライナ戦争」の真っ只中、米国務長官が対中政策を打ち出す事自体、異例ではないか。
実は5月初旬、米国務省はHPから「台湾は中国の一部」及び「米国は台湾独立を支持しない」という従来の表現を削除した。ところが国務長官は、講演の中で「1つの中国政策」を維持する、「米国は台湾独立を支持しない」と言明している。是非はともかく、態度軟化した中国に対するリップサービスではないか。もちろんアメリカ側にも、ロシアに対する戦略上、米中「和解」を模索したい意図があるのかもしれない。
ブリンケン演説の特徴はまず、中国人と中国共産党・習主席を区別した点ではないか。習政権統治下、共産党は国内で権威主義を強化し、海外ではより攻撃的になっていると、習主席を名指しで非難した。
次に国務長官は、米中関係は今日の世界で最も複雑で重要な国際関係の一つだと述べている。そして、中国は経済や外交、軍事、科学の各レベルで国際秩序を再構築する能力を持つ唯一の国だとした。他方、米国が中国政府の行動を変える能力が限られていることも認めている。
そして国務長官は、米国は既存の国際秩序を維持するため、今後、中国と熾烈な競争を繰り広げるだろうが、中国との「新冷戦」は求めないと言った。中国のグローバルな役割については、「中国は世界経済や気候危機から新型コロナに至るまで、さまざまな課題に対処するために不可欠な存在だ」と評価している。
たぶんワシントンとしては、今秋の第20回党大会で習主席が総書記に再選されるのを見たくないのだろう。
ちなみに先述した秦剛・駐米中国大使も、米中間の競争を否定しながらも、米中の"ウィン・ウィン"を強調する文章を書いている。したがって、北京はブリンケンスピーチを好意的に受け止めているのではないだろうか。
こうしたことを見ても、中国政権内で大きな変化が起きていることが分かる。
アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
『ウクライナ問題を語る世界の7人のリーダー』
幸福の科学出版 大川隆法著
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2022年7月号 上海大感染 こんなはずでは…… 習近平の憂鬱
https://the-liberty.com/article/19547/
2022年5月23日付本欄 コロナ禍の中国経済【澁谷司──中国包囲網の現在地】