2022年7月号記事

INTERVIEW

ウクライナ戦争で日本の矛盾が露呈

露中同盟に追いやっていいのか


ウクライナ戦争の背景について滅多に論じられることがない日本。
だが紛争になるには理由がある。ロシア研究者が紛争の背景を詳細に語った。

政治学者

上野 俊彦

上野俊彦
(うえの・としひこ) 1953年、東京都生まれ。83年に慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。防衛庁防衛研究所教官、日本国際問題研究所ロシア研究センター主任研究員、上智大学外国語学部教授。2019年に退官。著書に『ポスト共産主義ロシアの政治』(日本国際問題研究所)、その他共編著、論文など多数。

──日本のメディアは親ウクライナ・反露一色になっています。

上野氏(以下、上) : 世界のソフトパワーを調査している研究所の図(下図)があります。「ウクライナ戦争の責めはロシアが負う」と考える度合いを国別に調査した結果、日本が世界一になっています。シベリア抑留や「北方領土」問題等の経緯からロシア嫌いが多いのが一因ですが、もう一つ同調圧力が高いということもあります。結果、戦争原因への言及はご法度とされてしまう。私は、戦争は外交の延長線上にあり、紛争の解決のための外交(非暴力的解決手段)が失敗した場合に、戦争(暴力的解決手段)が選択されると考えます。従って、いかなる戦争にも正当性はありませんが、その原因や背景を考える必要はあるでしょう。

今回の戦争は2月24日に突然始まったわけではありません。ロシア・ウクライナ両国とも、戦争は2014年から8年間続いていると考えています。ウクライナ側はロシア・ウクライナ間の戦争であるとし、ロシア側はウクライナにおける内戦に、2月24日に介入したと捉えています。

──西側諸国は、プーチン大統領は拡大主義でヒトラーの再来だという見方が支配的です。

上 : ロシア側の主張によると、ロシアはウクライナ東部の未承認国家ドネツク人民共和国およびルガンスク人民共和国との友好協力相互援助条約に基づき、条約義務を履行するために介入し、それを「特別軍事作戦」と呼んでいます。

その目的は、ウクライナ国内のロシア語母語話者に対するジェノサイドを防ぐため、非軍事化・非ナチ化することだと主張しています。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を脅威とするプーチン氏は、「非軍事化」という言葉で、NATOの影響を排し、「中立化」をウクライナに求めているのです。

「ロシアに責任がある」と考える人の割合は、主要国の中で日本が最も多い
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出典: Global Soft Power Index 2022