電車に乗れば、右も左もスマホを触る人ばかり。スマホを活用しているはずが、いつしかスマホに自分が動かされる生活になっていないだろうか。銀座でVIP層の支持を集め続ける一流クラブのオーナーママに、その成功を支えた読書について話を聞いた(2017年9月号記事より再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)。

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「クラブ由美」オーナーママ

伊藤 由美

(いとう・ゆみ)東京生まれの名古屋育ち。18歳で単身上京後、19歳で「クラブ宮田」のナンバーワンに。22歳で勝新太郎の店「クラブ 修」のママに抜擢。1983年4月、23歳でオーナーママとして「クラブ由美」を開店。2015年11月に「シャンパーニュ騎士団」より叙勲、オフィシエを女性経営者として初叙任。著書に『銀座の矜持』(ワニブックス)、『粋な人、無粋な人』(ぱる出版)他、最新刊『できる大人は、男も女も断わり上手』(ワニブックスPLUS 新書)など。テレビ朝日系列「徹子の部屋」出演。

銀座のクラブで働くきっかけは、高校時代に林芙美子の『放浪記』を読んだことからでした。「自分の進む道は自分で決めたい」と決意し、銀座のクラブに電話をかけ上京しました。

読書から多くを学び、結果として本を読むことが今の仕事を支えてくれています。

私は特に歴史ものが好きで、戦国時代から明治維新までの時代小説はほとんど読破しました。特に織田信長については、どんな作家がどう描いているのかと興味を持ち、さまざまな作品を読みました。中国の歴史も『史記』で学びました。

私たちの仕事では、いろいろな方々のお相手をします。幅広い分野の本を読み「窓口」を開いていると、知らぬ間に話題が豊富になり、それゆえお客様のご興味に合わせて対応できるようになれるのです。

お客様から相談を受けることも時折あります。例えば、大切な方への贈答品などは、その方のご趣味や相手方のお立場などを考慮し、どうしたら喜んでいただけるのか、微力ながら知識を駆使して、少しでもお役に立てるよう「秘書室」のような役割も担うのです。

ですから、うちのお店の女の子にも知識や教養を得られるよう読書を勧めています。書物には、自分で学ぼうとしなければ出会えない素敵な言葉がたくさんあるので、それをぜひ知ってもらいたいと思います。品性や教養の深さは、どんな表現を使えるかに表れると思うのです。

読書家は好奇心旺盛

読書家のお客様は、話題が豊富ですし、新しい発見をいつも求めていらっしゃいます。それに人としての厚み、深みがあって、物事を的確に理解されている。たとえばもし、私が何かをお願いしたとしても、「誰かに何か頼まれてのことかもしれない」「何か悩んでいるのかもしれない」と、深く掘り下げて考えてくださいます。この相手を思いやる思慮深さは、その後のお仕事の成功にも関係してくるのではないでしょうか。

読書家の方は、あまりご自分のことを語らない方が多いように思います。でも、その方のオーラというか、人としての器の大きさがにじみ出ているのが感じられます。

映画も、もっと面白くなる

読書が面白いのは、物語の背景まで知ることができるからです。ネットでも簡単に言葉を探せますが、その言葉が描かれる小説を読むと、奥深さが理解できます。映画を観る時も、私は先に原作を読むようにしています。小説を読むと、人物設定や生活環境など、人間関係の機微まで分かります。

私は、お店の女の子が、「○○という映画が面白かった」と言っていたら、時代設定や背景が理解できるよう、原作を読むよう勧めます。そして読んだ後、「次は何が面白いですか」と聞いてきたら、今度は読書家のお客様に「お勧めの本はありますか」と尋ねてみます。すると、「その作家の初期の作品が良い」などと、話が膨らむこともあります。そして次にお会いする時には、その本の読後感を語り合う、というように、読書がお客様とのコミュニケーションにつながるんです。

電車でスマホばかり触っている方もいますが、そういう人は、「良い人」や「良い本」に出会えなかったのかなと、やや残念に思います。もし、自分が尊敬している人から推薦の一冊を勧められたら、「読後感を聞いていただき、もっとその方と親しくなれたら……」と思い無我夢中で読みますよね。そうした憧れの気持ちも、読書のきっかけになるのではないでしょうか。(談)

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