《本記事のポイント》
- 2兆ドルの経済再建計画:クリスマス・プレゼントにならず
- サッチャーが重視した聖書の一節「働きたくない者は、食べてはならない」
- 旧約聖書の主なる神も、働くことを求めていた
トルコ系アメリカ人で心臓外科医のメフメット・オズ氏が、米ペンシルバニア州選出の連邦上院議員に共和党から立候補の決意を固めた。
移民としてやって来た父親は、いわゆる3K(きつい、汚い、危険)の仕事に従事して家族を支えた。そしてメフメット氏に、懸命に勉強することや、仕事に尊厳を持つこと、他の人々に尽くすことの尊さを教えたという。
そんな彼は自分のテレビ番組を持つほどのセレブとなったが、選挙戦に向けて全てを投げ出して立候補する予定だ。
コロナ禍を契機に一部のエリートが不必要に国民の自由を制限し、救うべき命を救えていない現代のアメリカに憂えてのことだと、出馬理由を明かした。
11月のバージニア州知事選挙で、民主党が強い地盤であったにもかかわらず、共和党候補のグレン・ヤンキン氏が民主党候補テリー・マコーリフ元州知事を破り当選。
ヤンキン氏がインフレなどで苦しむ人々の生活に焦点を絞った戦略で戦ったのに対し、マコーリフ氏はトランプ氏の批判に終始。国民の窮状を感じ取れない民主党の体質を露呈したことが敗因となったとされている。
ペンシルバニア州も民主党の地盤だが、同様に共和党が優勢になるレッドウェーブが起きないとは言い切れない。
経済再建計画:クリスマス・プレゼントにならず
バイデン米政権は、約2兆ドル(約229兆円)の経済再建計画の年内可決を目指したが、ジョー・マンチン民主党上院議員が反対したため、「クリスマス・プレゼント」の実現はかなわなかった。
4年前の2017年12月、トランプ前大統領が大型減税を国民に「クリスマス・プレゼント」として1.6兆ドルの大型減税を実現したが、バイデンの経済政策は将来増税が必要になるため、その方向性は正反対。
そもそも働くことと「所得を得る」こととの関係性をなくしてしまう民主党の試みは、「私有財産の原則」を捻じ曲げることに他ならない。
近代でこの原則の神聖さを高らかに謳ったのは、17世紀に活躍した政治思想家のジョン・ロックである。
ジョン・ロックは、付加価値を付け加えるという「営為」がある時に、ある物が当人に帰属するという所有権の理論を確立した。
例えば、ここにリンゴが一つあるとしよう。そのリンゴは、自然の果実であるから、誰かの所有物ではないが、それを収穫するという努力がある人の所有であるとみなす根拠になるとしたのである。
それまでは国際法学者のグロティウスは、ある物がある人の所有になるには、他の人の「同意」が必要だとしていたが、「付加価値」という努力に着目し、考え方のパラダイムシフトとなった。
この時より、私有財産は神聖視されるようになった。
サッチャーが重視した聖書の一節「働きたくない者は、食べてはならない」
そんなジョン・ロックの思想は、聖書から生まれた。
敬虔なクリスチャンであるジョン・ロックは、聖書を座右の書としていた。
その聖書では、労働は人間に喜びと達成感をもたらすものとされている。
そもそもイエスの弟子たちで、一日中布教活動をせず「付加価値」を生まずにいた弟子はいなかった。
例えば新約聖書の執筆者の一人である使徒パウロは、驚異的な量を執筆し、ローマに行って布教活動をした上、他人の世話にならないよう、働けるときはいつでも働いていた。
そんなパウロは当時、陸路と海路による貿易で栄えていたローマ帝国の属州マケドニヤの町テサロニケで、肉体労働を嫌がる人が増えてきたと聞き、教会に宛てた手紙の中でこう記している。
「兄弟たち、わたしたちは、わたしたちの主イエス・キリストの名によって命じます。怠惰な生活をして、わたしたちから受けた教えに従わないでいるすべての兄弟を避けなさい。(中略)わたしたちはそちらにいたとき、怠惰な生活をしませんでした。また、だれからもパンをただでもらって食べたりはしませんでした。むしろ、だれにも負担をかけまいと、夜昼たいへん苦労して働き続けたのです。援助を受ける権利がわたしたちになかったからではなく、あなたがたがわたしたちに倣うように、身をもって模範を示すためでした。実際、あなたがたのもとにいたとき、私たちは、『働きたくない者は、食べてはならない』と命じていました。そのような者たちに、わたしたちは主イエス・キリストに結ばれた者として命じ、勧めます。自分で得たパンを食べるように、落ち着いて仕事をしなさい。そして、兄弟たち、あなたがたは、たゆまず善いことをしなさい」
これがサッチャー英元首相も、指針としていた有名なパウロの書簡である。
「宗教を語らない」という暗黙の了解が政治の世界を支配する中、イギリスの戦後の政治指導者の中で、彼女ほどキリスト教の信仰を公の場で積極的に語った政治家は見当たらない。
サッチャーがこの聖書の一節をことのほか大切にしていたのは、イギリスが直面していた危機が政策論で片づけられない道徳的危機にあるとみていたからである。
旧約聖書の主なる神も、働くことを求めていた
旧約聖書においても、エデンの園から追い出される前の楽園は、「完全な至福の場」であった。だがそうであったとしても、人は働くことを主なる神から求められている。
「主なる神は人を連れて来てエデンの園に住まわせ、人がそこを耕し、護るようにされた」(創世記2章15節)
主なる神は、人間が「耕す」ことで付加価値を生む仕事をすることを命じていたのである。
そして新約聖書の主なる神も、人はもらうより「与える」ほうが良いことだと教えている。
労働は義務というよりも、人間の本性そのもので、自己表現や自己実現そのものだったのだ。
古典派経済学では、「労働は負の効用をもたらし、効用を生むのは消費だ」とされている。だから消費したければ働かなければならないことになるが、本来は順序が逆で、仕事を通して多くの人々に与える側に立ちたいから働くのである。
もし自らの欲望を満たすためだけに働くのであれば、vocation(天職)という単語の語源さえ説明できなくなる。ラテン語vocare(呼ぶ)に起源をもつvocationは、「神がこれをしなさいとお呼びになった」ことを意味した。
要するに、神の栄光を示すために私たち一人ひとりは神より呼ばれ、職業を授かっているのである。
「仕事は神への捧げもの──」。そう考えるトランプ氏は、前述の通り2017年12月に減税によって働くインセンティブを高める政策を実行した。それは神から見ても「クリスマス・プレゼント」にふさわしいものであったと言えるだろう。
神なき民主主義国家においては、神の子としての人権を尊重できず、むしろ政治家が国民を動物のごとく扱い「管理」する国家へと変容する。
国民にクリスマス・プレゼントを贈るには、政治家には「神の代理人」としての役割があるのだということを知り、主の御心の探究が必要となる。
【関連書籍】
『減量の経済学』
幸福の科学出版 大川隆法著
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