《本記事のポイント》

  • 人口増加が鈍化するなか、なぜか公表が延期された人口統計
  • いよいよ人口減に転じたか? 人口学者がシミュレーション
  • 2050年には高齢者が5億人!?


中国の勢いに影を落とすのは、意外にも高齢化かもしれない。

中国共産党は1949年に政権を奪取して以来、国勢調査を7回行っている。

1953年7月、第1回目の国勢調査を実施した。第2回目の国勢調査は1964年7月に行っている。間隔が10年ではなく、11年という中途半端なものになったのは、1950年代後半の「大躍進」運動が失敗し、食糧危機に見舞われたため、調査時期が遅れたのかもしれない。

その後、毛沢東主席が発動した「文化大革命」(1966~1976年)期間中も、中国当局は国勢調査ができなかった。1977年、トウ小平が再復活し、1978年12月、中国で「改革・開放」が始まった。そして1982年7月、18年ぶりに第3回目の国勢調査が実施されている。

1990年、第4回目の国勢調査からは、きっかり10年毎に行われている。ただし調査日が以前の7月1日から11月1日へと変更された。理由は不明である。

人口増加が鈍化するなか、なぜか公表が延期された人口統計

国勢調査をするたびに注目されてきたのが、中国の人口増加の勢いである。第3次国勢調査(1982年)から8年後の第4次国勢調査(1990年)までの間に、人口が1億2800万人も増えた。そして、10年後の第5次国勢調査(2000年)では、さらに1億3500万人増加している。

ところが、その10年後の第6次国勢調査(2010年)では、人口が4500万人しか増えず、鈍化がみられた。21世紀に入ると、中国にも「少子化」傾向が顕在化したのだ。

さて、問題は昨2020年11月に行われた第7回目の国勢調査である。今年(2021年)4月上旬に調査結果が公表される予定だったが、なぜか延期されている。4月26日時点で、依然、未発表のままである。

いよいよ人口減に転じたか? 人口学者がシミュレーション

人口学者の易富賢氏(『大国空巣』の著者で米ウィスコンシン大学マディソン校研究員)は、2020年の人口を「1990年の人口+出生数-死亡者数-移民数」でシミュレーションしている。

第7次国勢調査の結果について易氏は、2020年の中国の実人口が12億5500万人にとどまり、多くても12億8300万人を超えることはないだろうと予測した(易富賢「2020年国勢調査シミュレーション分析」『人口と未来』2020年11月16日)。

仮に易氏の予測が正しければ、最小でも約5700万人、最大で8500万人の人口減である。中国で人口がマイナスに転落するのは、「大躍進」運動後、深刻な飢饉に見舞われた時期(1959~61年)以来となる。

人口が急激に減少した理由としては、出生率が著しく低下したことが大きいだろう。中国共産党は1979年から2014年まで、「一人っ子」政策を実施した。一組の夫婦には子供を一人までとする計画生育政策だ。

しかし、2014年には同政策を放棄し、2016年から「二人っ子」政策に転じている。それにもかかわらず、人口は増加していない。おそらく子供の教育費が非常に高いせいではないか。親としては、二人目を躊躇せざるを得ないかもしれない(「都市化」による「晩婚化」も影響しているだろう)。

易氏によれば、2020年の高齢化指数(0~14歳の子供100人に対する65歳以上の高齢者数)は、「シナリオA」で111%、「シナリオB」では102%となる。つまり、子供よりも65歳以上の高齢者が上回るのだ。

先進国の場合、社会全体がある程度豊かになってから「少子高齢化」時代を迎える。だが中国は、昨年5月に李克強首相が暴露したように、月収1000元(約1万6000円)の人がおよそ6億人(全人口の約43%)いる。皆が豊かになる前に「少子高齢化」の時代に突入したのだ。

中国は長らく、生産年齢人口が従属人口に対する比率が大きい状態である「人口ボーナス」を有していたが、その"アドバンテージ"を失いつつある。

2050年には高齢者が5億人!?

ところで昨年、中国発展研究基金会が『中国発展報告書2020:中国人口の高齢化の発展傾向と政策』を発表した。

その『報告書』に関して「中国は2022年頃に高齢化社会を迎える。科学的に対応すべきだ」「中国新聞網」(2020年6月19日)という評論が登場している。その一部を紹介しよう。

『報告書』によれば、中国は2000年に高齢化社会に突入して以来、高齢化が昂進している。2020年には65歳以上の高齢者が約1億8000万人となり、総人口の約13%を占める。2022年には総人口の14%を占める。2025年(第14次5カ年計画の終了年)には、2億1000万人以上となり、総人口の約15%を占めるようになるだろう。

さらに2035年、2050年には65歳以上の高齢者は約3億1000万人、約3億8000万人に達し、それぞれ総人口の22.3%、27.9%を占める。60歳以上を高齢者とした場合、その数はさらに増加し、2050年には5億人近くになるという。

なお『報告書』は、2019~2050年までの中国「都市化」プロセスを2段階に大別した。第1段階の2019~2036年にかけて、都市人口は8億2600万人から10億4700万人に増加する。だが、第2段階の2037~2050年の間に、都市人口は10億4400万人から10億1300万人へ減少すると見込んでいる。

このまま、中国で若者の人口が減少し続ければ、社会の活力が失われる事は間違いない。今後、北京は経済的にますます苦しくなるのではないだろうか。


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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。



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