一般社団法人「ユー・アー・エンゼル」(諏訪裕子理事長)がこのほど、幸福の科学名古屋正心館(名古屋市)で第一回「ダウン症を考える」公開シンポジウムを開催した。胎児の染色体の異常を、妊婦の血液から推定する「新型出生前診断」がメディアで話題になる中での開催だ。

方針転換、検査の情報提供へ

新型出生前診断はこれまで、遺伝カウンセリングを行う病院で実施を認められてきたが、無認定の民間クリニックでの開催も急増しているとして、国が関与する施設認証制度が創設されることになった。

同診断については、旧厚生省が1999年、「医師が妊婦に検査の情報を積極的に知らせる必要はない」という方針を打ち出していた。しかし、今年3月31日に出された専門委員会の報告書では、国や自治体が検査に関する情報を妊婦らに提供するのを容認する方向へと方針転換している。

だが、ダウン症等の可能性が高いと分かった胎児の人工妊娠中絶に繋がり、結果として「命の選別」になるとする議論が続いている。

障害のある当事者が語る「出生前診断」

今回のシンポジウムの第一部では、ダウン症やその他の障害の当事者23人が、「ダウン症」や「出生前診断」に関して、指筆談という形で思いをつづっていった。

指筆談とは、当事者のかすかな指の動きを読み取り、言葉にしていくというコミュニケーションの方法だ。これまで「言葉がない」と思われていた重度障害者からも言葉が引き出されるようになり、親子間や、障害者支援グループ等で取り組まれている。今回は、登壇者の國學院大學教授の柴田保之氏が指筆談支援をし、当事者の意思表出を手伝った。

ダウン症の当事者の一人である磯部優凜さん(11歳)は、新型出生前診断をめぐり、その思いをこのように語った。

「最初、この(新型出生前診断)話が聞こえてきた時、耳を疑ってしまいました。なぜなら私たちに生きる意味がないというメッセージに聞こえてきたからです。目の前が真っ暗になってしまいました。でも、皆さんと話をしているうちに、これは間違っていることなので、きちんと私たちが前を向くことが大事なのだと気付くようになりました。何一つ恥じることなどないのだということに気付くようになりました」

優凜さんは「私たちが生きられる社会は、皆が優しい気持ちで生きられる社会なので、私たちのためだけではありません。私たちがちゃんと生きていくことが、世の中のためになるんだという強い意志で生きていこうと思います」という。

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左から、柴田教授、優凜さん、母親の理江さん。※指筆談は、コロナ対策を行って開催しています。

「本当は産みたかったのに、他の人が産んじゃだめよということで……」

指筆談では、他のダウン症の当事者からも、「おなかの中で一生を終え、この世界の素晴らしさを知ることなく、この世を去らなければいけない子供のことを、大人はちゃんと考えてあげてほしい。ダウン症の子供に世界の美しさを教えてあげてほしい」(山本悠夢さん、13歳男性)、「僕が一番悲しいと思っているのは、本当は産みたかったのに、他の人が『産んじゃだめよ』ということで産むことを諦めたお母さんが日本中にたくさんいるのだろう」(福岡佑斗さん、14歳男性)と、出産を断念した母親の悲しみを慮る意見も発された。

有我友里さん(36歳女性)は、「私は、『ダウン症の子供であると分かったらほとんどの人が産まない選択をする』と教えてもらった時、絶望的な気持ちになりました。新型出生前診断というのは、あらゆる知的な障害がある人に対して、生きる価値がないと言っていると思います」と語った。

また、ダウン症以外の障害の当事者からも、この問題についての切実な声が上がった。

「障害のある周りの子たちは、ほとんど存在が押しつぶされてしまっている。そのルーツは、ダウン症の子供が産まれないようにしようということなので」(木内勇希さん、11歳男性)、「誰かを切り捨てる社会は、次は自分が切り捨てられるかもしれないという恐怖を生む社会。誰も切り捨てない、いい日本にしなくては」(久保山雅士さん、11歳男性)と、ダウン症の子供や障害者にとどまらず、社会全体の問題として捉える必要があると述べる当事者が続いた。

他にも、「僕が辛い気持ちでいると、パッと駆け寄ってくれるのが、なぜかダウン症の子だった。僕の難しい気持ちを分かってくれて、どれだけダウン症の子に助けられたか分からない。ピンチの時、僕たちもお返しをしないといけないというのが、僕の心からの願いです。知的障害があるとされる仲間全員がスクラムを組んで、それはおかしいとはねのけていかないといけないと思っています」(近藤峻史さん、32歳男性)、「僕たちは何も考えていない人間としてずっと差別を受けてきました。こういう、存在を否定するような流れは早く打ち切ってほしい」(浅井健志さん、31歳男性)などの訴えが相次いだ。

冒頭で紹介した、磯部優凜さんの母・理江さんは、「子供が親よりも真剣に前を向いて生きていこうと言っている姿に、親の方が勉強させてもらいました。皆が、スクラムを組んで生きていこう、と言っている姿に勇気をもらいました」と語る。出生前診断については、「考えただけで、涙が止まりません」と言葉を詰まらせた。

議論の場ができていないと、発言することができない

続く第二部では、柴田保之教授と一般社団法人ユー・アー・エンゼルの諏訪裕子理事長、名古屋正心館の金澤由美子専任講師が登壇。香川県からあさひクリニックの産婦人科医、西口園惠氏もリモート出演した。

諏訪氏は、「健常者の側が『障害者はこういうことで困っているのだろうから、こういう支援がいいのではないか』としていることのなかには当事者の実態と違っているものも多くて。常識を入れ替え続けてきた」と語った。

柴田氏は第一部を振り返り、「出生前診断のことが話題になって、ダウン症の団体のホームページに当事者がコメントを出していたが、抗議の意思を表明した方は普段から発言の機会を持っている人一人だけで、それ以外の人は『僕たちは一生懸命生きている』と言うほかなかった」と指摘。「おそらく『当事者は、そこまでは言わないだろう』という暗黙の前提があって、議論の場に出られていなかった。今日、皆さんは議論の場に立っていた。『場』をつくらないと、本当の声は出てこないということがあると思います」と語った。

新型出生前診断、受けない人の数は出て来ない

産婦人科医の西口氏は、「新型出生前診断のことをしっかり知らない人も多い。妊婦健診は1カ月に人数で行けば50名くらいですが、新型のお話が出る方は月に1人出るか出ないか。3カ月に2人。お母さんは基本的に、お腹の赤ちゃんをかわいいと思っていらっしゃる方が多いので、受けようと思ったことがないような方のほうが多いと思います」と語っています。

諏訪氏が「検査を受けた人の9割の人が中絶すると、マスコミでは言われることが多いと思うのですが、それは実態と少し違うわけでしょうか?」と投げかけると、西口氏は「どれくらいの方が『受けていないか』という数字は全く出てこないんですね。私は、お問い合わせをいただいたら、『検査をしてダウン症の可能性が分かったら、9割の方が妊娠を継続しない』と状況をお伝えしています。すると、『私は中絶するつもりはないので、検査をしません』と言う人も多いです」と、医療現場の実情を語った。

諏訪氏は、「報道されているものには検査を受けていない人の人数が反映されていないとなると、真実を知るには当事者の方や産婦人科医の方にお話を聞くしかない。集まってこうした場を持つことがますます重要になっています」と語った。

人間の本質は魂であって、肉体に障害があっても、宿っている魂は健全そのものである。この、「障害があっても、魂は健全」であることを伝える取り組みは、誰もが安心して暮らせる社会をつくるためにも、ますます重要になるだろう。

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