《本記事のポイント》

  • バイデン氏の現金給付案の効果は存在しない
  • 連邦レベルでの最低賃金15ドルへの引き上げで失業者が溢れる
  • 一番の刺激策は「お客さんが来てくれること」

バイデン米次期大統領は4日、ジョージア州上院選の応援演説に駆け付け、「(民主党が上院2議席を制して多数派を握れば)2000ドルの現金給付が届く」と強調。

要するに、「民主党に投票したら、3月までの時限措置の600ドルではなく、2000ドルもらえるようになる。ジョージアのみなさん、2000ドルに上げてほしかったら、民主党に投票を」と言ったわけだ。

大統領就任前から早々にも、公約を実現しようとしている。

バイデン氏は14日、コロナ禍に苦しむアメリカ国民に対して、1.9兆ドル(約200兆円)の新型コロナ対策を提示した。

2月に発表される予定の第2弾の経済刺激策では、4年で2兆ドル(約207兆円)もの巨額のインフラ投資と併せると、全部で4兆ドル(約415兆円)ほどの政府支出になる予定だ。

バイデン氏は14日、「今回の現金給付は失業や感染といった苦痛を癒す絶大な効果がある」と演説。21年の経済成長率は4%を超えるという観測もあるが、果たしてそうした"絶大な効果"は望めるのか。

大胆にばら撒いても、経済的効果はそもそもない

バイデン氏は高所得者を除き、1人当たり最大1400ドルを支給する予定。昨年の3月、12月に続く、3回目の支給になる。民主党内からは公約と違って600ドル足りないとの「批判」の声が上がっている様子だ。

就任日を1週間後に控えた今回の発表は、トランプ政権とは違って、コロナに苦しむ低所得者層に「優しさ」や「慈悲心」のある政権こそバイデン政権なのだと印象付けたい意図が感じられる。だが一時的な現金給付では、経済を浮上させることはできない。

サプライサイド経済学の父のアーサー・ラッファー博士が弊誌で語ったように、ばら撒くからには、取られる側の人がいるはずで、所得を奪われた側のことを考慮した場合、その効果は相殺されてしまう(1月末発刊の弊誌3月号では「ケインズ経済の問題」について語ってくれているので参照されたい)。

また米ウォール・ストリート・ジャーナル紙においても、さっそく批判記事が掲載された。フーバー研究所のジョン・コーガン氏とジョン・テイラー氏は、これまでアメリカ史上5回ほど現金給付が行われてきたが、そのどれも「よく言っても無視できるほどのもので、一時的なものにすぎなかった」という。フォード政権、カーター政権、ジョージ・W・ブッシュ政権、オバマ政権、そしてトランプ政権下で行われたどの給付金においてもである。

コーガン氏とテイラー氏によると、消費は長期的な所得に応じて行われるので、予想通りの乗数効果を発揮するわけではない。貯金や借金の返済に充てる人がほとんどで、約15パーセントの人々しか、支給されたお金を使わないという調査もあるという。

連邦レベルでの最低賃金15ドルへの引き上げで失業者が溢れる

同経済刺激策のパッケージには、連邦レベルの最低賃金を15ドルにするという案も含まれている。コロナ禍のご時世で最低賃金15ドルを連邦レベルで一律に導入すれば、何が起きるのか。

これは、雇用主に従業員の生産性に関係なく、時給上げを求めることを意味し、雇用を続ける場合、事実上の課税になるということだ。

そうした場合、雇用へのインセンティブを下げるため、雇用主は少ない従業員で仕事を回そうとする。2019年7月の超党派の議会予算委員会は、15ドルの最低賃金は、130万人の雇用を奪うことになるという見積もりを出している。

州レベルで最低賃金が導入された実験結果を見ると、それが裏付けられる。たとえばサンフランシスコ市では、最低賃金が導入された直後に、60以上のレストランが閉店に追い込まれた。コロナ禍で閉店する飲食店が多い中、最低賃金はそれを加速させてしまう可能性が高い。

また労働統計局のデータによると、47州で25%の労働者が15ドル以下の時給を支払われているため、彼らは失業の憂き目に遭うのは確実である。

「底上げ」は優しい響きを持つが、その結果、雇用そのものを失う可能性が高まってしまうなら本末転倒だ。

トランプ減税で中低所得者ほど所得の上げ幅は大きくなった

トランプ政権下で行われた減税では、すべての教育レベルの人の賃金が増加したが、中でも高卒資格のない人々の賃金が12%も上昇した。黒人の失業率は3.5%まで下がった。個人所得の伸び率も過去最大で、所得の上げ幅は低所得層ほど大きかった。

貧困率も下がり、フードスタンプへの依存率も軒並み下がった。これほど格差解消に貢献した政権はなかった。要するに、あらゆる階層に対して減税し、税をフラット化に近づけたトランプ減税の方が全体の「底上げ」をもたらしたのである。「上げ潮はすべての船を浮かばせた」と言える。

大川隆法・幸福の科学総裁は著書『正義と繁栄』で、「国のレベルで、『最低賃金は、一時間いくら』であるとか、こんなことが決められると思っているのであれば社会主義者でしょう。これは、完全な社会主義者です」と述べている。

コロナ禍を契機に米民主党は、経済構造そのものをより社会主義的なものへと変える野心を持っている。連邦レベルでの最低賃金の導入は、アメリカの社会主義化への大きな「前進」となるだろう。

"You can't love jobs and hate job creators"(雇用を創出したいといいつつ、雇用を創出する人々を嫌うことはできません)

バイデン政権は、最高所得税率を39.6%へと引き上げ、高所得者のキャピタルゲイン課税や配当への課税も現行の20%から43.4%へと引き上げる予定である。社会保険料にあたる給与税も40万ドル以上の所得者に対しては7.65%から12.4%へと引き上げる。法人税も、28%へと引き上げられる予定である。額としては総額で4兆ドルの増税を公約として掲げてきた。

だがこのような大増税は事業主にとっては大惨事だ。

本来、雇用を生み出す人がいなくては、雇用は生まれないので、民主党の政策とは逆に最高税率を下げて、高所得者である企業家を優遇することこそが求められる。所得の低い人々を潤そうという志そのものはよくとも、企業家や豊かな人々を敵視しては、雇用そのものがなくなり、経済は低迷してしまう。

ラッファー博士の「雇用を創出したいといいつつ、雇用を創出する人々を嫌うことはできません」という言葉を、左派の経済学者は理解できないらしい。

一番の刺激策は「お客さんが来てくれること」

では、一番の景気刺激策は何か。CKEレストランの元CEOのアンドリュー・パズダー氏は、「一番の景気刺激策は、お客さんが来てくれることです。お店を開けることができなければ、PPP(米連邦政府の中小企業庁給与保護プログラム)も、現金給付も意味がありません」と述べ、政府の援助があっても倒産してしまえば何の助けにもならないことを強調した。

そもそも政府にお金をばら撒き続ける体力などないので、どこかの段階で公約だった「増税」を実行に移す必要が出てくる。つまりバイデン氏の大風呂敷は「大増税」とセットなのだ。

ラッファー博士は、「もし大恐慌時に増税しなかったら、深刻な不況にならなかったか?」という記者の質問に対して、「大恐慌時も働く人に課税して働かない人に給付しました。結果として増税することになりましたが、もし増税しなければ、大恐慌は起きず、1920年代の繁栄は続けられた」と答えた。当時、繁栄していたのは、地球上でアメリカだけだったので、増税しなければ後の世界大戦を避けられたかもしれない。

今回も財政悪化の懸念から4兆ドルの増税を実行に移せば、フーバー政権やルーズベルト政権の時のように、不況から恐慌になってしまう可能性が高いだろう。

「当時の教訓を学ばないと、大統領選の結果次第でアメリカの景気はさらに落ち込む可能性もあります」とラッファー博士は指摘していたが、それが現実味を帯び始めた。

コロナが今後も続くことを考えれば、ばら撒き続けることの限界を政府は早く悟るべきだ。給付金では事業の存続は不可能であるし、「働かないこと」への給付金は、国民から勤労によって神に近づく喜びをも奪ってしまう。

お金をもらっても1ミリも神に近づく美徳を培うことはできない。与える側の人生を生きる人々が増えてこそ、本当の意味で国のGDPは増えていく。バイデン政権は、表面上は"優しさ"を装うが、人間の幸福感とは何かについての洞察が欠落しているところに誤りがある。

日本も他人事ではない。そうした、人間の幸福の基について理解が不足する大きな政府主義者に、国を奪われてはならないだろう。

(長華子)


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