《本記事のポイント》

  • 香港の自由に憧れて密航船で忍び込む
  • 天安門事件で「母に呼ばれる」
  • 西側の団結が試される時

香港で、また神のために戦う人が葬り去られようとしている。

黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏や周庭(アグネス・チョウ)氏らが実刑判決を受けたのとほぼ同じタイミングで、中国共産党に批判的な「リンゴ日報」の創業者ジミー・ライ氏が、詐欺罪の容疑で拘留された。来年の4月16日まで拘留の予定だが、香港国家安全維持法違反についての捜査も進行中で、さらに長引く可能性もあるという。

影響力の大きいジミー・ライ氏を"見せしめ"にして、中国共産党は「我々に歯向かう者はこうなる」というメッセージを送ったと言える。

ジミー・ライ氏が狙い撃ちにされたのは、彼が象徴するものが中国の恐れる「自由」という価値観だったことも大きいだろう。

リンゴ日報は2014年の雨傘革命時、中国共産党の圧力の末、広告主が次々に降り経営が危うくなっても、批判の矛を収めなかった堅忍不抜の精神を貫く新聞社である。

ジミー・ライ氏は新聞社の創業前、総合アパレル企業、ジョルダーノ・インターナショナルを設立。現在、約30カ国・地域に2375店舗を展開するほどの大手企業として成長させた。ユニクロの柳井正氏にも影響を与えるなど経営者として世界的に名が知られている。


「香港は天国に違いない」

もともとは中国本土の極貧の家庭で育ち、小学校までしか出ていない。8歳の時、駅で手荷物を運ぶアルバイトをしていた"将来の億万長者"は、香港から来た旅行客からチョコレートをもらう。

「こんなにおいしいチョコレートがある香港は天国に違いない」

一粒のチョコに香港の「自由」を嗅ぎ取ったジミー・ライ氏は、12歳の時に密航船に乗って香港に忍び込んだ。

香港の衣料工場で働いた後、経営者としての才覚を発揮したライ氏は、ファッション業界で成功者となった。


天安門事件で「母に呼ばれる」

だが億万長者の彼に転機が訪れる。天安門事件が起きたのだ。

1989年6月4日の大虐殺は、ライ氏の心を呼び覚ました。同氏は「母が呼んでいる気がした」と懐古している。

そこで私財を投じてリンゴ日報を設立。その社の方針として掲げたのは「自由」だ。

リンゴ日報の本社1階には、フリードリッヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンの銅像がある。彼が折に触れて学んできた経済学者たちで、その自由主義思想はライ社長の信念そのものを表している。

「メディアは情報を伝えるビジネスで、それはまた国民に選択肢を与えるということです。選択できることが自由だからです」「私が人生を自由の戦いのために捧げようと決意できたのは、ハイエクのお蔭です」


「神が私たちの側にあるので心は平静です」

このような経済思想のほかに、彼の信念を支えたものとして、カトリックの信仰心がある。その姿は日本ではあまり報じられていない。

ジミー・ライ氏は、中国へとすり寄るバチカンに警鐘を鳴らし続けている陳日君司教のもとで洗礼を受けている。

米シンクタンクのAEIは11月下旬、シベリアの収容所に9年収監されていたソ連出身の活動家で、その後ブッシュ政権に影響を与えたイスラエルの政治家ナタン・シャランスキー氏とライ氏との対談を主催した。その中で、ライ氏は自らの心境をこう吐露している。

「神が私たちの側にあるので、心は平静です」

「私の肉体生命の生存が重要ではないのです。私のことをリーダーとして見てくれている何百万もの人たちに責任を感じていますし、決して引き下がってはならないと思っています。でもその抵抗は、私にとって苦痛ではなく喜びなのです」

世界中に住まいを持つライ氏は、亡命しようと思えばできたはずである。だがライ氏にとってその選択肢はなく、十字架に架かることで後世の人を救う道を選んだイエスと自らを重ね合わせている。地上において真に霊的な自己を掴んでいる人にしかできない生き方と言えるだろう。

ちなみに対談の中で、シャランスキー氏もライ氏に共感し、こう述べている。

「全体主義国家は、内部から民衆が蜂起し、体制崩壊が起きる可能性があります。それに対する恐怖ゆえに、全体主義国家はさらなる抑圧のために資金を投じなければならない」「しかし思想信条の自由がなければ、イノベーションを起こすような研究開発はできない。だから他国から技術を盗み続けているのです」「西側は、人権問題と技術の盗用問題を結び付けて考えなければなりません」

西側は、かつてレーガンやサッチャーが悪を見抜いたように、一枚岩となって中国の全体主義国家に立ち向かうべきだと述べた。


西側の団結が試される時

ジミー・ライ氏のような自由と信仰の闘士が、次々と弾圧されている。シャランスキー氏が言うように、西側は座して見ていてはならない。

中国の香港における一連の動きは、西側の決意を試すものである。アメリカをはじめとした主要国が、中国の強圧的政策をどこまで許容するのかを見計らっているのだ。

バイデン政権が誕生した場合、気候変動の問題などで中国と手を組めるところは組みつつ、人権問題などでは中国を締め上げていく可能性はある。だが西側諸国は、中国に今ほどの経済力がなかった天安門事件後の1990年代においても、その人権問題を非難し圧力をかけることで譲歩を引き出すということはできなかった。

その教訓を思えば2021年以降も、アメリカはトランプ政権が中国に対して取ってきた政策を継続すべきであろう。いやむしろ、中国がウイグルや香港に対する強圧的態度を続ける限り、たとえバイデン氏が大統領になったとしても、中国に対する手綱を緩める選択肢はますます少なくなっていくと言える。

ソ連にもナタン・シャランスキーやアンドレイ・サハロフのような活動家がいたように、中国にも彼らのような人物が数多く息を潜めているはずだ。仮に米政府が宥和政策をとれば、そんな彼らを見殺しにするのと同じである。

かつて政治評論家のウォルター・リップマンは冷戦時代、自由で民主的な諸国民が不可知論やどっちつかずの態度のまま全体主義国家に直面することを恐れた。そのような状態ではどちらが勝利するかは明々白々だからである。

日本が典型的だが、経済的利益を気にするあまり、香港の弾圧に対する各国首脳の声はそれほど強い意志を感じられるものではなかった。リップマンの恐れたことが、また数十年の時を経て実現しつつある段階にある。

もしアメリカが宥和政策に傾くのであれば、日本はアメリカを先導し、民主主義国家同士の同盟の強化と、普遍的な価値のために共同歩調をとるべき点を訴えてゆかなければならない。

(長華子)


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