《本記事のポイント》
- 習近平主席、EU首脳陣と会談するも……
- 人権問題で対中批判強めるEU
- 「EUは米中の間で中立を維持できない」
「新型コロナ」後、習近平政権は「戦狼外交」を展開したが、外交的手詰まり状態に陥った。特に、米国との関係が悪化した。
習近平主席、EU首脳陣と会談するも……
そこで北京は、欧州連(以下、EU)との良好な関係維持を模索している。外交的突破口を開くため、王毅外相が9月下旬から10月初めにかけ、欧州5ヶ国を訪問した。
習近平主席も9月14日、メルケル・ドイツ首相や他のEU首脳らとビデオサミットを開催。ウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長(ドイツキリスト教民主同盟所属)とシャルル・イヴ・ジャン・ギスレーヌ・ミシェル欧州理事会議長(元ベルギー首相)も出席した。
しかしこのサミットでは、中国とEUとの立場の違いが鮮明になってしまったようだ。
人権問題で対中批判強めるEU
「美国之音(VOA)」(9月15日付)に掲載された趙婉成による「EU-中国首脳会議は多くの困難な問題に直面」という記事が興味深いので、紹介したい。
同会議前、参加各国は相手国の輸出品を保護するため、地理的表示が明らかな食品・飲料に関する協定に署名した。
例えば、スパークリングワインについて、中国はフランス・旧シャンパーニュ地方産のみ、その名の使用を許可する。協定で保護された他の製品には、アイリッシュウイスキー、イタリアのパルメザンハム、ギリシャのフィタチーズ、中国四川省成都市郫都区(ヒトク)のトウバンジャン、同浙江省湖州市安吉県の白茶、同遼寧省盤錦市の米などがある。
農業分野における関係強化という意味では、中国とEU共に、一定の成果を上げたと考えられよう。しかし、両者の溝が埋まることはなかったのが、人権問題に関してである。
9月の会談では、人権問題が最も扱いにくいテーマだった。目下、香港・新疆等をめぐり、中国と欧州の見解の相違が日増しに拡大している。そのため、EU諸国の北京への対応が強硬になった。
例えばEUは、香港の警察が林卓廷(Lam Cheuk Ting)民主党議員など民主活動家数十人を逮捕したことを指弾した。新疆ウイグル自治区のイスラム教徒に対する弾圧にも抗議している。
EU委員会が6月に発表した報告書でも、新型コロナウィルスが武漢で発生した際、中国共産党がソーシャルメディアを利用して嘘の情報を流したと論難している。
以上が記事の概要である。
「EUは米中の間で中立を維持できない」
次に、同じく「美国之音(VOA)」(9月18日付)に掲載された樊冬寧の「話題の対話: 習近平の"連欧で米を制す"に対し、トランプは中東カードを使用か?」という記事も面白いので、紹介しよう。
記事の中で政治評論家の陳破空は、今度の中国・EU首脳会議は北京政府にとって思惑通りに事が運ばなかったと指摘している。EUの指導者たちは北京に対し、人権・ウイグル・香港問題などを非難した。だが、習近平主席はEUにとって肯定的な反応を示さなかったのである。
また陳は、EUが米中の間で中立を維持することは不可能だと喝破した。同首脳会議では人権問題以外、他の主要議題でも、EUと米国の立場が一致している。
例えば、市場アクセス、市場開放など、欧州は中国商品に常に門戸を開いているが、中国は欧州の資金と商品に制限を設けている、と陳は指摘した。
さらに陳は、欧州が会談直後、新疆とチベットの問題を取り上げたと指摘。ドイツの外相らは、米国と類似した方式で、「ドイツ版インテリジェンス戦略」を提示したと述べた。
以上が記事概略の一部である。
今回のビデオサミットで習近平主席は、EUを利用して中国の"四面楚歌"状況を打破したいという狙いがあった。けれども、香港を含む中国国内の人権問題で、中国とEUは鋭く対立し、両者の溝は更に深まった感がある。
今後、習近平政権が人権問題で政策転換をしなければ、EU諸国は、米国が仕掛けた"対中包囲網"に深く関与するに違いない。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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