《本記事のポイント》

  • 米国務長官の演説は「現代版ハル・ノート」!?
  • 中国を追いつめに追いつめるトランプ政権
  • 中国は、天変地異に党内闘争でボロボロ

ペンス米副大統領が2019年10月、対中政策転換を示唆する演説を行った。当時それは、あたかも「現代版ハル・ノート」のように見えた。

だが、今年7月、ポンペオ米国務長官が習近平主席を名指しで非難する演説を行った。こちらの方が踏み込んでおり、より「現代版ハル・ノート」に近いのかもしれない。

中国を追いつめに追いつめるトランプ政権

こうした強いメッセージと軌を一にするように、トランプ政権は次々と対中強硬策を打ち出し、包囲網を築いている。主な政策を列挙してみると、怒涛のような勢いに改めて驚かされる。

(1) ファーウェイ(華為技術)と関連企業114社への輸出管理を強化した。

(2) 米国人にファーウェイ(華為技術)の使用を禁じている(規制はTikTokやWeChatまで及ぶ)。

(3) 米国では「クリーン・ネットワーク計画」と呼ばれる取り組みを拡充し、通信分野で中国企業を排除した。

(4) テキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖した。

(5) 中国人記者に対し、駐米ビザの延長を厳格にする。

(6) 米国への中国人留学生を厳しく規制する。

(7) 中国高官の米国資産を凍結する。

(8) 中国高官の米国へのビザ発給を厳格化する。

(9) 米国は西太平洋に2つ、ないしは3つの空母打撃群を展開させた。トランプ政権は、いつでも中国軍を迎え撃つ準備が整っている。

(10) 米政府は、台湾との関係強化、および台湾の国際的地位向上を目指し、今年8月9日、アレックス・アザール厚生長官を同国へ送り込んだ(2014年、マッカーシー環境保護局長官以来、6年ぶりの閣僚訪台となる)。

(11) 米国上院は、2021年度「国防権限法」(NDAA 2021)を可決した。その中で、台湾を環太平洋軍事演習(リムパック)に招請することが提案された。

同盟国に対しても、包囲網の一角を成してもらうべくメッセージを送っている。トランプ政権の意向を受けてか、米戦略国際問題研究所(CSIS)は、自民党の二階俊博幹事長や今井尚哉首相補佐官を「親中派」の代表として名指しした。日中関係がこれ以上緊密にならないよう、けん制しているかのようだ。

よく知られているように、目下、米国の世論調査では、民主党のバイデン候補がトランプ大統領をリードしている。しかし、仮に米軍が東シナ海・南シナ海で中国軍と開戦して勝利すれば、11月の大統領選挙でトランプ大統領が再選される可能性が高まるだろう。

トランプ政権は、「対中戦争」というカードも、いつでも切れるよう準備しているのではないか。

中国は、天変地異に党内闘争でボロボロ

一方、一部の論者が指摘しているように、中国が今置かれている状況は、戦前における大日本帝国のそれに似ているかもしれない。ロシアや朝鮮半島を除き、中国は四面楚歌の状態である。

けれども、今の中国と昔の日本との最大の違いは、戦争のできる態勢にあるか否かではないか。現在、中国は表向き「戦狼外交」を展開している。だが、それは国内の矛盾を隠すため、海外に強気な姿勢を見せているに過ぎないのではないだろうか。

(1) 経済の悪化、(2)「新型コロナ」の第2波・第3波の襲来、(3) 長江・黄河流域の洪水(特に、前者の場合、三峡ダムを死守するために上下流の堤防を決壊させている)、(4) 蝗害等、中国共産党が対米戦争を遂行するに当たっての障害には枚挙にいとまがない。

かつての大日本帝国は、戦争も辞さない「強硬派」と、戦争を回避しようとする「融和派」に分かれていた。しかし、いったん「大東亜戦争」を始めたら、国内は一致団結した。

だが今日の中国は「習近平派」と「反習近平派」に分かれ、激しい党内闘争を行っている。例えば、今年の夏、非公式の北戴河会議が開催された。だが、その期間が非常に短かったのである。中国共産党ナンバー3の栗戦書(全国人民代表大会常務委員長)がすでに北京へ戻ったという情報もある。

こんな状況下で、中国共産党が対米開戦に踏み切れるのか甚だ疑問であるし、拙速に踏み切ったとしても、悲惨な結果に終わるだろう。

アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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