2011年に、民主化運動「アラブの春」で長期独裁政権が倒れたエジプト。初の自由選挙が行われたものの、事実上のクーデターによって、前国防相のシーシー氏が大統領に就任してから8年が経つ。

近年は開発が進み、人口も増えている一方で、「一帯一路」構想により中東での存在感が大きくなる中国の進出も目覚ましい。

HS政経塾第1期生で、エジプト留学の経験がある幸福実現党の城取良太氏が、新型コロナウィルスの感染が拡大する前にエジプトを視察。大きく様変わりしていくその姿をレポートする。

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城取 良太

プロフィール

(しろとり・りょうた)HS政経塾(第1期生)在籍時に中東研究を専攻し、2012年にカイロ・アメリカン大学に留学。現在、幸福実現党広報本部に所属。

第2のドバイ!?

6年ぶりのカイロには、大きな驚きを隠せずにはいられないことがもう一つあった。

それは通称ニューカイロと呼ばれる"新しいカイロ"が全貌を現し、実態ができていたことだ。

確かに、私がカイロで暮らしていた8年前からニューカイロの都市開発はかなり進んでいた。

それもそのはず、増加の一途を辿る人口は、カイロ中心部だけで統計上3000万人を超えており、複雑すぎる地権関係なども足かせとなって、旧カイロの都市整備・拡張は困難を極め、街としてのキャパシティーを遥かに超えてしまっていた。

そうした事情から、ニューカイロの建設は既に2000年頃から進められてきた。

既にカイロ・アメリカン大学の各学部のほとんどがタハリールから、ニューカイロに新設されたキャンパスに移転されていて、カイロ中心部から1時間バスに揺られて通学した記憶は懐かしい。

現シーシー政権が「第2のドバイを作る」と豪語し、「新首都」、また「スエズ新運河」の建設を進めているが、ニューカイロはまさにそのベッドタウンにあたる。

ピラミッドや歴史的遺跡を求めてエジプトを訪れる旅行者にとっては、ニューカイロなど何の興味も湧かないだろう。

しかし、カイロに住んだことのある私は、このニューカイロに滞在するということにとてつもない興味を覚えた。

ニューカイロ探訪

私の8年来のエジプト人の友人であるバッサムも、中産階級が多く住むナセル・シティから、この数年でニューカイロの住人になっている。彼に見どころを案内してもらった。

現地に着いた初夜には、カイロに来たとは思えないような近代的なレストランストリートで「揚げ寿司」を出す寿司チェーンに連れて行ってもらった。

レバノンの有名な菓子メーカー「Patchi」もエジプトには多い。

カイロでも有名な「mori sushi」。

ドバイでも人気な「フェスティバルシティ」というショッピングモールもニューカイロに進出しており、家族連れの地元人で大変な賑わいを見せていた。

帰国前日には、バッサムの自宅にもお邪魔し、奥さんお手製のエジプト料理を堪能した。

バッサム宅のリビング、奥さんはインテリアデザイナー。

自宅は軽く100m²を超える4LDKのアパートメントで、家賃は4万円。日本に比べれば格段に安いが、エジプトでは月収10万円程度で高給取りと言われことを考えれば、決して安くはない。

ナセル・シティで生まれ育ったバッサムは「とにかくカイロの人ごみにはうんざり。みんなイライラしているし、家庭を持って、子供を育てるにあたって、静かで空気がきれいなところに一刻も早く移りたかった」と語ってくれた。

エジプトでは、全国民の約1割に当たる1000万人が富裕層と言われる。

ヨーロッパの富裕層すらも、過ごしやすい気候や住みやすさを求めて、ニューカイロで増えつつあるヴィラタイプの物件を購入するケースもあるという。

ヴィラタイプの1軒家のエリアもかなり多くなっている。

バッサムのようなアッパーミドル以上の家庭は、続々とニューカイロに移り住み始め、週末だけカイロの家に帰ったり、両親に会いに行ったりという生活を続けているそうだ。

貯蓄を作り、将来的にはニューカイロで分譲の一軒家を購入する予定で、もう二度とカイロには戻りたくないという。

カイロが抱える3つの問題

現在の首都カイロが抱える深刻な問題はいくつかある。

第一は、何といっても交通インフラの脆弱さであり、それ故に慢性化する交通渋滞だ。

8年前から変わらない問題だが、増え続ける人口と共に、車両登録台数も10年で2倍弱に増え、間違いなく渋滞はさらに酷くなっているという。

通勤時間帯はまず円滑に動くことはない。日本に比べればマナーが悪すぎるドライバーが自己中心的な運転をし始めれば、どうなっていくか想像するのは容易だろう。

けたたましく、あらゆる所で鳴るクラクションと共に、人々のフラストレーションは頂点に達していく。

第二は、ゴミ問題だ。

もともと、ゴミを分別するという概念が希薄で、行政側の収集システムも脆弱だ。

2012年、海外の駐在員が住むようなザマレク地区でも、収集システムの麻痺によって、ゴミの山がたくさんできていた。

歴史情緒のあるザマレクの街並み。

今回もムハンマド・アリー・モスク周辺のエリアから、ニューカイロに戻る際、大通りから一本脇道に入っていくと、やはりひどい悪臭とゴミの山、そのゴミを食べて育つヤギや動物たちの姿を至る所で確認できた。

一本入ったところにはゴミの山がある。

そこで育てたヤギなどを、犠牲祭などの生贄として食べるつもりなのかは分からないが、衛生的には最悪な環境であることには間違いない。

また、人口急増の影響で水不足も深刻な問題となっており、生存に必要な水資源も不足しつつある。

電力も含め、こうした基本的な社会インフラが老朽化しているカイロでは、いつ何時断水、停電が起こるかも分からない。経済的に余裕がある人々がこうした暮らしから逃げ出したくなる気持ちも十分に分かる気がする。

分断されるカイロはどうなるのか?

カイロからニューカイロに向かう幹線道路沿いには、UAEドバイの有名なディベロッパーEMMAR(エマール)などの巨大な看板がずらりと並んでいた。

いろんなディベロッパーの広告を至る所で見ることが出来る。

国内外の開発業者が多く参入し、ニューカイロ内にさまざまなコンセプトの街が出来ていく様が容易に想像できた。

新首都・スエズ運河がある東方面へもニューカイロは拡張を続け、都市開発はとどまるところを知らない。

ビジネスの中心もニューカイロに移りつつあるようだ。「今まではアズハルなどオールドカイロの中心部に店を構える人気レストラン等も、軒並みニューカイロに出店し、実入りのいいニューカイロに本拠を移しつつある」とバッサムと親しい店主が教えてくれた。

また、ニューカイロで初めてレストランビジネスに挑戦、大成功しつつある店も出てきているという。

セレブも御用達の新しいレストラン。肉料理が最高。

ニューカイロのアパートメントや一軒家は、カイロに住むアッパーミドル層の子供が成長後、譲渡する宅地として、または将来の値上がりに備えて物件を押さえるという不動産投資も活発に行われている。

今後、新首都建設が完成すれば、主要な行政機能はもちろん、スエズ運河に程近い新首都エリアに主要なビジネス機能も、この地に移っていくことが想定できる。

そうなれば、間違いなくカイロからニューカイロへのミドルクラス以上の移動は大幅に促進されるだろうし、エジプト国民のかなりの割合を占める低所得層がそのまま取り残されることになるだろう。

そうなれば「持つ者と持たざる者」「富む者と貧しい者」「新しいカイロと古いカイロ」の分断は加速的に進んでいくはずだ。

古代エジプトさながらの「遷都」に伴う都市建設はエジプト国民を幸福にするのか。または、国を分断し、古いカイロはシーシー大統領が恐れる「テロリズム」の大きな温床となっていくのか。

今後の帰趨が注目される。(続く)

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