サハリン(樺太)にあるLNGガスプラント。
《本記事のポイント》
- 日露間で新たなLNGプロジェクトが始動
- LNGで輸入するより、パイプラインで天然ガスを輸入する方が経済的
- 安全保障的にも、日露間のパイプラインはプラスになる
黒丸がすでに原油を生産している油田、「サハリン1」。オレンジ色の丸が、新たに建設予定のLNGプラント(編集部作成)。
日露間で、新たな液化天然ガス(LNG)プロジェクトが始動する。
日本の官民が出資する「サハリン石油ガス開発」からなる企業連合に加え、米エクソンモービルやロシアの国営石油会社ロスネフチが共同で進める。
サハリン島北部沖の油田「サハリン1」では、すでに原油を生産している。その油田を約200キロのガスパイプラインでロシア本土とつなぎ、新たに建設するLNG基地で年間620万トンのLNGを生産する構想だ。
先行して稼働するLNG事業「サハリン2」では、年間約1000万トンを生産し、日本などに販売している。日本と距離が近いロシアにLNG基地が増えることで、中東依存度が高い日本のLNG調達先の分散につながると期待されている。
サハリンと北海道をパイプラインでつなぐ
日露の共同開発が進むことは望ましい。
ただ、北海道から40キロメートルしか離れていないサハリンで採れた天然ガスを、わざわざマイナス162度以下に冷却して液化天然ガス(LNG)にし、タンカーで日本に運んだ上、さらにそれを解凍して使うのであれば、いっそのこと天然ガスのままパイプラインで輸入した方が効率がよいのではないか。
上記の面倒な工程を省くことができれば、ガスの輸入費はぐんと安くなる。
本誌2019年11月号で取材した経済産業研究所の藤和彦氏は、サハリンから北海道までガスパイプラインを通すことを提唱している。藤氏によると、構想はいつでも着手できる段階にまで練られているが、旗振り役を担う日本企業が見つからず塩漬けになったままだという。
日露間のパイプライン構想は安全保障上のリスクをはらむという声もあるが、藤氏は、「むしろエネルギーインフラをつなぐことで国家間の信頼が高まる」と指摘する。
ロシアはすでにドイツなど欧州諸国とパイプラインをつないでいるが、ウクライナ問題で両者の関係が悪化した時も、ロシアはパイプラインを止めなかった。2015年に、領空侵犯したとしてトルコがロシア軍機を撃墜した時ですら、ロシアは観光客の制限などで報復したものの、パイプラインについては言及しなかったという。ウクライナに対してはガス供給を複数回にわたって止めているが、これは再三にわたりガス代を踏み倒すウクライナへの警告だ。
パイプラインで「運命共同体」になることは、急速に接近する中露を引き離すためにも重要だ。中露をつなぐ初のパイプライン「シベリアの力」は今月2日に稼働している。
日本の発展のためにも、中国の台頭を押しとどめるためにも、国家戦略としてパイプライン構想を推し進めるべきではないか。
(片岡眞有子)
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