ロシアの東シベリアと中国北東部を結ぶ、ガスパイプライン「シベリアの力」がこのほど、開通した。プーチン露大統領と中国の習近平国家主席がテレビ中継を介して参加した開通式典では、中ロ間の関係強化が示唆された。
その一方で、中国側はガス需要の見込みを当初のものから大きく引き下げたと報じられている。
「シベリアの力」の契約が締結されたのは、2014年5月だ。しかし、契約から5年たっても価格は長らく交渉中とされてきた。ガスパイプライン建設に際しての680億ドルの費用は全額ロシアが負担してきたが、ガス価格はいまだ定まっていない。加えてガス需要量も予想を下回るとなると、ロシア側にとって「痛手」となる。
ロシア「資源外交」の現状
また、ロシアが資源外交で苦戦しているのは中国のみではない。
ロシア政府系企業・ガスプロムについては、天然ガス輸出の独占が欧州司法裁判所で問題視されている。現在はドイツに向けたパイプラインの輸送量が制限されている状況だ。「取引相手国」上位を占めるドイツとの間にも暗雲が立ち込めており、外交の切り札としての「資源」がロシア経済に影を落としかねない。
これまでも天然ガスや石油が豊富なロシアは、外交の手段として「資源」を利用してきた。
そもそも、中国とロシアがパイプライン建設の交渉を始めたのは、2014年3月にロシアが行ったクリミア併合に際し、欧米諸国が制裁を科したためだった。これにより国際的に孤立状態になったロシアが次なる取引国として選んだのが、中国だ。
石油の輸入を中東に依存している日本と比べると、中国はロシアのほかにも中央アジア諸国や東南アジア、さらには豪州からも天然ガスを輸入しており、「取引国」の自由度が格段に高い。中国とロシア間の関係協力が盛んに報じられるが、ふたを開けてみると、ロシアは中国の「戦略の一手」として利用されたとみることもできる。
しかし、ロシア側は中国との新パイプライン開通に際して、極東諸国を気にかけているようだ。ロシアメディアのリア・ノーボスチ電子版は2日付の記事で、「勢力均衡のための、日本や朝鮮半島に向けたガスパイプラインのプロジェクト」についても言及している。
日露の関係強化が鍵
中露がガスパイプライン開通に至ったのは、日本も無関係ではない。もし、クリミア併合の際に、欧米諸国とロシアの橋渡し役を日本が担っていれば、中露の接近を防げたかもしれない。
資源に乏しい日本も、ロシアからのガスパイプラインを通し、「運命共同体」として東アジア地域の安定に取り組むことが賢明だ。両国の信頼は、日露平和条約の締結に向けた交渉や、北方四島の帰属問題の解決を大いに前進させることになる。これ以上「中国の力」を増長させないためにも、北の「大国」ロシアと日本の間には経済・政治を包括した協力関係が求められる。(上野詩織)
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