中国から見た南西諸島。南西諸島が中国軍の海洋進出を阻害している。

元陸上自衛隊 西部方面総監

用田 和仁

プロフィール

(もちだ・かずひと)1952年、福岡県生まれ。防衛大学校を卒業後、陸上幕僚監部教育訓練部長、統合幕僚監部運用部長、第7師団長などを歴任。元陸将。現在、日本安全保障戦略研究所上席研究員。共著に『日本と中国、もし戦わば』(SBクリエイティブ)がある。

中国国防省は14日、中国軍が中国南東部の沿岸で軍事演習を実施したことを発表した。同省は、演習を行う場所を明示しなかったが、台湾情勢を意識していると見られる。

中国南東部の沿岸は、台湾と向かい合う場所。今回の演習は、アメリカが台湾に22億ドル(2400億円)相当の武器を売却し、蔡英文総統がアメリカを訪問したことへの対抗措置だろう。

中国が台湾に対する恫喝外交を強めている。中台関係が不安定になる中、日本は激変する安全保障をどうみるべきか。本誌2019年5月号に掲載した、元陸上自衛隊西部方面総監の用田和仁氏のインタビューを再掲する(内容や肩書きなどは当時のもの)。

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中国の習近平国家主席は「海洋強国」を標榜し、中国海軍は外洋艦隊を造ろうとしています。その狙いはアジアからアメリカを追い出し、アジア・アフリカ・欧州を支配することです。

現在は、日本や台湾、フィリピンなどの国々による列島線が障害となり、中国の艦隊は自由に外洋に出られません。また、台湾を吸収できれば、中国は「太平洋への扉」が開かれます。

奄美大島などの島々が点在する南西諸島も、国防上重要な防衛線です。鹿児島と台湾はこの"吊り橋"のような防衛線を支える門柱と言えます。いずれかが中国の支配下に置かれたら、南西諸島の防衛は崩壊します。

人の腕に例えるなら、与那国島が指先、沖縄がひじ関節、奄美大島が腕の付け根です。奄美大島は、九州から南西諸島に戦力を送るための要衝であり、もしも中国に支配されたら、戦力の流れが止められてしまいます。

中国が南西諸島を支配下に置けば、中国空軍が南西諸島を使い、海軍の作戦を支援できます。結果、米海空軍は日本や台湾に接近できなくなります。また、太平洋ベルト地帯が中国海空軍の影響下に置かれると、日本の政治・経済も脅かされ、中国の軍門に下ることになります。南西諸島は単なる離島防衛ではなく、「日本の防衛そのもの」です。

鹿児島と沖縄は国防の要

3月末、奄美大島に初めて対艦ミサイルと防空ミサイル、警備部隊が編成されました。昨年は米陸軍と日本の陸上自衛隊の対艦ミサイル部隊が米海軍演習・リムパックに参加。これは、南西諸島など離島防衛が国防の要という陸自の考え方が米陸軍にも浸透したことを示しており、米海兵隊もその考え方を新たに取り入れると表明しています。

原型にあるのが、2009年に南西諸島で実施された陸海空自衛隊による統合演習です。当時は非公開でしたが、陸自の対艦ミサイル部隊が初めて海を渡り、奄美大島に展開。この演習が南西諸島などの列島線の防衛の始まりとなりました。

対艦ミサイルの射程距離からすれば、鹿児島と奄美、沖縄などに配置すれば台湾から九州までの全体をカバーできます。もちろん、屋久島、種子島、徳之島などにも大きな港や飛行場があるため、本来は部隊を配置することが望まれます。しかしまったく戦力が足りず、民間防衛組織もないのが現状です。

ミサイルの数も絶対的に不足しています。軍艦1隻を1発で仕留めることはできません。少なくとも10~20発を被せないと、撃ち落とされてしまいます。60~70隻の中国主要艦艇を撃破するなら、1000~1500発の対艦ミサイルが必要です。

鹿児島本土の防衛も重要な課題です。霧島市の国分に普通科連隊が駐屯していますが、海自の重要な基地である鹿屋が所在する大隅半島は、防衛が手薄なのが現状です。中国は、民間人を装った海上民兵を使うなど、正規軍でない「ハイブリッド戦法」で突如占領、または攪乱してくる可能性があります。その場合、九州から南西諸島にかけての海上航路は寸断されるかもしれません。

複眼思考で中国に対抗を

鹿児島は国防において重要な県ですが、自衛隊の予算・人員・装備・弾は圧倒的に不足しています。沖縄で、米軍基地の辺野古移設や石垣島の自衛隊基地などに反対する人たちは、「中国の脅威はない」と言います。その背景には、日本の政治家や経済人、マスコミなどが中国の軍事的脅威を封印し、国民に知らせないという「嘘」があります。

日本は一刻も早く目を覚まし、複眼思考を持ってアメリカと協力し、中国に経済的・軍事的・政治的に立ち向かう道を選ばなければなりません。(談)

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