《本記事のポイント》
- 中国が貿易戦争への対抗策として「レアアース禁輸」を示唆
- しかし、アメリカは「脱・中国産レアアース」に動いている
- 中国はかつて日本にも「レアアース禁輸」をしたが、自分の首を絞めただけだった
中国の習近平政権はアメリカの対中関税への対抗策として、レアアースの対米禁輸を示唆している。しかし、結局は自分たちの首を絞める結果に終わるだろう。
中国国家開発改革委員会は5月、「もし誰かが、我々の輸出したレアアースで製造した生産品を利用し、中国の発展を阻害しようとしたら、中国人民は皆、不愉快になる」と述べた。要するに"脅し"である。
中国政府は、アメリカへの"秘密兵器"として、(1) ハイブリッドカーや戦闘機などの製造に必要なレアアースの禁輸、(2) 2兆ドルと言われる米国債の売却、(3) 中国市場から米製品を排除、の3つを挙げている。
もともとトウ小平は「中東の石油、中国のレアアース」こそが、いざという時の欧米に対する"切り札"と考えていた。中国のレアアース埋蔵量は、地球上の35%以上だと言われる。そしてアメリカは2004年から2017年まで、レアアースのおよそ80%を中国からの輸入に頼っていた。
アメリカの脱・中国産レアアース
しかしアメリカは、レアアースの対中依存から脱却しつつある。
現在、カリフォルニア州マウンティン・パスから、レアアースが採掘されている。また、それだけでは足りないので、ワシントンはテキサス州に、レアアース会社を建設予定である。
さらにアメリカは、供給地を中国からオーストリア、エストニア、ミャンマー 、インド、ブラジル、ベトナムなどに切り替える予定だ。
中国が「レアアース」をカードにするというなら、別の方法で調達すればいいだけの話。こうして中国は、資源の輸出先を失うことになる。
対日禁輸でも「ヤケド」
実は、中国のレアアース禁輸措置はかつて我が国に対しても行われたことがある。その際も、中国は自らの首を絞める状態に陥った。
2010年9月、海上保安庁の船に、中国漁船が体当たりした。いわゆる「尖閣諸島中国漁船衝突事件」だ。当時の胡錦濤政権は那覇地検石垣支部で起訴された船長を早く帰国させようと、日本政府(民主党政権)にプレッシャーをかけた。レアアースの対日禁輸を行ったのである。
当時、日本の産業界は慌てた。しかしこの事件をきっかけに、たった2年間で中国からのレアアース輸入量を4分の1まで減らしている。
産業界は「中国以外の国からのレアアース供給確保」「技術革新によるレアアース使用量の削減」「『都市鉱山』(都市で大量に廃棄された家電製品などから再利用される資源)の活用」で、見事に苦境を乗り切ったのである。
結局、中国の一部レアアース会社は商品が売れずに倒産した。また2014年、中国のレアアース業界は全体で赤字に転落している。
中国政府は日本の技術力を過小評価したため、レアアースの対日禁輸で"自爆"したのである。
習近平政権は、同じ過ちを繰り返す可能性がある。
米国債も「切り札」としては不発!?
中国政府には他にも「切り札」がある。しかしこれも、"不発""自爆"のリスクを抱える。
その一つが「米国債」である。目下、中国政府は2兆ドルの米国債を保有しているという。それを投げ売れば、アメリカに大打撃を食らわせられるといわれている。
しかし、「実際に持っている米国債は、その3分の2、あるいは、半分しかないのでは」という説もある。そうなれば、威力も減ってしまう。
また万が一、習近平政権が突然、米国債を売却したら、日欧(特にドイツ)が一致協力して、米国債を買い支えるという防衛策も考えられる。
そもそも、米国債の投げ売りで価格が暴落すれば、大損するのは大量の米国債を持つ中国自身である。
つまり習近平政権は、ワシントンを脅しても、実行までには至らない公算が大きい。
貿易戦争において、中国にもはや勝ち目はないのである。
拓殖大学海外事情研究所
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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