2003年12月号記事

年間3万人を超える自殺者のうち半数近くが病気を苦にしたものであり60歳以上では約6割にものぼる。

かつて釈尊は「人生は苦である」とし生・老・病・死(しょう・ろう・びょう・し)の四苦(しく)を脱する心のあり方を説いた。

病苦や老苦などは、だれも逃れることができない苦しみだからこそ、そのなかで心穏やかに生き抜くためには仏法真理が不可欠なのだ。

入院の必要のない  病気を苦にして自殺

病気を苦にした自殺といっても、その病気は必ずしも重いものではなく、また、独り暮らしよりも家族と同居している人のほうが自殺しやすい──そんな意外な調査結果がある。

一つは、秋田大学医学部の吉岡尚文教授が98年に行ったもの。秋田県内の高齢者の自殺のうち77%が病苦を理由としたものだったが、そのうち80%が入院の必要のない病状で、高血圧が最も多かった(以下、脳血管障害、消化器系疾患、腰痛など機能障害)。

しかも、自殺した人が同居していた家族の数は5~6人が大半で、独り暮らしは6%に過ぎなかった(注1)。

吉岡教授は「お年寄りには高血圧の割合がもともと高いこともありますが、それだけでは片づけられません。病苦の背景に、『家族に迷惑をかけたくない』という心苦しさ、家族に相手にされない疎外感や孤独感があります。そこに注目する必要があるでしょう」と話す。

もう一つは、埼玉県立がんセンターが10年前にがん患者を対象に行った調査だ。がん患者で自殺する人の割合は、がん患者以外の人の6倍にのぼったが、末期がんになって入院中に自殺するケースは少数派で、通院治療中で家族と同居している人のほうが多かった。

病苦自殺の原因には、「闘病の苦しみから逃れたい」という思いがもちろんある。ただ、そればかりではなく、病気やそれに伴う家族関係などの問題にどう向き合うかという考え方、人生観にも原因がありそうだ。