仕事や人間関係に疲れた時、気分転換になるのが映画です。

映画を選ぶ際に、動員数、人気ランキング、コメンテーターが評価する「芸術性」など、様々な基準があります。

アメリカでは、精神医学の立場から見て「沈んだ心を浮かせる薬」になる映画を選ぶカルチャーがあります。一方、いくら「名作だ」と評価されていても、精神医学的に「心を沈ませる毒」になる映画も存在します。

本連載では、国内外で数多くの治療実績・研究実績を誇る精神科医・千田要一氏に、悩みに応じて、心を浮かせる力を持つ名作映画を処方していただきます。

世の中に、人の心を豊かにする映画が増えることを祈って、お贈りします。

今回は、悪癖を直せず、退廃的な生活を送ってしまう人に向けたものです。

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(1)「ガンジー」(★★★★☆)

まずご紹介するのは、「ガンジー」(1982年、イギリス・インド映画、188分)で、インド建国の父、マハトマ・ガンジーの不撓不屈の人生を描く伝記映画です。第55回アカデミー賞の受賞作です。

1893年の南アフリカで、ガンジー(ベン・キングズレー)は、人種差別で列車から放り出されたことに、激しい怒りを覚えます。弁護士だったガンジーは、暴力をいっさい用いずに闘うことを信条とし、"生涯禁欲"の誓いを立て、差別反対の闘争を開始。その後1915年、インド・ボンベイに戻ったガンジーはインド国民から英雄として迎えられました。

インドを植民地として搾取していたイギリスは、インド人の言論、思想、集会の自由を抑圧したため、ガンジーはインド国民にストライキを呼びかけます。イギリス政府から何度も逮捕され、嫌がらせを受けながらも、正義を貫き通すガンジーは、「マハトマ(偉大なる魂)」と呼ばれ、インドの精神的支柱となったのでした。

ガンジーが夢見たのが、インドの独立です。第二次世界大戦終結という時代の流れを受け、ついにインド独立が目前に迫ります。しかし、イスラム教徒とヒンズー教徒の対立が激化。イスラム教徒によるパキスタン建国を受け、両教徒は国境沿いを中心に衝突し、内戦状態になってしまいます。これを悲しんだガンジーは、両教徒に殺し合いをやめるようハンガーストライキに入るのでした。彼は、果たして戦争をおさめることができたのでしょうか。

ガンジーは自らに「禁欲」を課しました。宗教的に言えば、これは「執着を離れる」ということでしょう。

精神医学では、こうした「執着」の表れとして、「中毒症」「依存症」「嗜癖(しへき)」についても分析しています。ギャンブル依存症、買い物依存症、薬物・アルコール依存症、恋愛依存症、性嗜好障害・性倒錯など、様々な症例があり、刑事事件になることも少なくありません。最近では、スマホ中毒やゲーム依存症も増えています。

こうした依存症の大きな原因の2つが、ストレス回避のためと、人生の目標・生きがいがないことです。

したがって、依存症から脱出するには、まずストレスから逃げないことが大切です。失恋、離婚、病気、死別、経済不況、リストラ、パワハラ、セクハラ、いじめなどのストレスから逃げずに、それを整理することが必要です。

ストレスを整理する際の心構えとしては、以下の3点が挙げられます。

(1)人生は不確かなものであり、すべては変化していくという認識を持つこと

受け入れがたいことが起きた時にストレスは生じるが、そもそも人生は思い通りにいかないものであるという認識を持ち、不確かさに耐える力をつける。

(2)「今、ここ」に意識を集中させる時間を持つ

いわゆる、マインドフルネス。自らの思考や感情、行動の因果関係を紐解き、自分という存在を俯瞰することで、柔軟に変化していくマインドを身につける。

(3)自らが人生の担い手であると認めること

自分の人生に責任を持っているのは、他でもない自分であると認識する。それにより、人生の選択に対する責任感や、その選択がもたらす結果を受け入れるマインドを持つ。

さらに、人生の目標・生きがい作りをしていくことで、依存症や悪癖から抜け出し、創造的な人生を歩むことができます。

心理学者のアブラハム・マズローは、人間が持つ最高の欲求として「自己実現欲求」を挙げていますが、自己実現をする人には、15の特徴があると言われています。その1つが「正義の実現」です。「非常に倫理的で、はっきりとした道徳基準をもっていて、正しいことを行い、間違ったことはしない」という特徴が挙げられています。

人生の目標、生きがいを定める上では、「自分のため」だけではなく、「正義」や「公共善」という観点を盛り込むことで、実現に向けたモチベーションが高まるはずです。

(2)「X-MEN」(★★★★☆)

次に紹介するのが、「X-MEN」(2000年、アメリカ映画、104分)です。

遺伝子突然変異のミュータントたちは、社会からいわれのない迫害を受けていました。

そうした中、磁力を操る能力を持つミュータント、エリック・レーンシャー(イアン・マッケラン)は、不寛容な人間社会への怒りから不満分子ミュータントらとともに復讐しようとします。

一方、テレパシー能力者でミュータントのチャールズ・エグゼビア教授(パトリック・スチュワート)は、才能に恵まれ正義の心を持った子供たちを育て、「X-MEN」を結成。世界を支配しようとするエリックたちを阻止するために立ち上がります。

本作のメインテーマは「遺伝子」ですが、遺伝子だけでは、人間の行動は決まりません。「悪行を控え、善行をなそう」とする後天的な努力によって、幸・不幸が分かれていきます。

人間はしばしば、才能や外見、環境、学歴が恵まれていないと生きる気力を失い、退廃的な生活を送ってしまうことがあります。しかし、「努力によって人生を変えることができる!」と信じたほうが、幸福な人生が開けます。本作のエグゼビア教授のように、どのような環境にあっても、努力によって善行を積んでいきたいものです。

(3)「バッド・アス」(★★★☆☆)

最後にご紹介する映画は、「バッド・アス」(2012年、アメリカ映画、91分)。これは、ある初老男性がチンピラ2人を撃退した様子が、動画サイトにアップされたことで世界的に話題になった実話をもとにした、痛快アクション映画です。

アメリカのとある町。フランク・ベガ(ダニー・トレホ)はベトナム戦争から帰還した今でも、心の傷が癒えず、定職にも就けず、屋台でホットドッグを売って、生活のやりくりをしていました。そんなある日、フランクは、バスの中で2人の不良にからまれている老人を助け、その一部始終が動画サイトに流れたことで、一躍有名に。彼の暗い退廃的な人生に、突然光がさしてきたのです。

しかし、親友のクロンダイルがチンピラにからまれて命を落としてしまいます。警察の捜査では埒が明かず、フランクが独自に調べたところ、クロンダイルは市長の汚職にからんだあるデータの所在を突き止めたことで殺されたことが判明。親友の死に、組織犯罪の影を見たフランクは、行動に出ます。生まれ変わった正義の味方、フランクに果たして勝算はあるのでしょうか?

他には、以下のような映画がオススメです。

「カンフーパンダ」(★★★☆☆)

口だけは一人前のぐうたらパンダが、伝説の戦士に選ばれ、悪の武術家との戦いに挑むアニメ映画。本作は、「いかに自分を信じきることができるか?」を問う内容になっています。地道な努力はもちろん大切ですが、最後に勝敗を決するのは、「信じる力」なのだと気付かせてくれます。

「インサイダー」(★★★★☆)

あるタバコ企業の倫理違反活動を告発するジャーナリストたちの正義の戦いを描く、実話を基にした社会派映画です。本作を観ると、「正義」を体現するには、「勇気」が必要であり、この2つは不可分な関係になっていることが分かります。逆境に遭いながらも、正義と勇気を示す姿に感動します。

「不撓不屈」(★★★☆☆)

実話「飯塚事件」に基づく"税理士VS国税庁"の法廷物語。国家権力の横暴に屈せず、正義を貫き通した一介の税理士の奮闘記です。最近の研究結果によれば、「意志力(will power)」が人の幸福感を高めることがわかってきています。本作の主人公・飯塚のように、「大義」をかかげることで、意思力は最強のものとなります。悪から離れ、善を追求する意思力を養っていきたいものです。

幸福感の強い人弱い人

幸福感の強い人弱い人

千田要一著

幸福の科学出版

精神科医

千田 要一

(ちだ・よういち)1972年、岩手県出身。医学博士。精神科医、心療内科医。医療法人千手会・ハッピースマイルクリニック理事長。九州大学大学院修了後、ロンドン大学研究員を経て現職。欧米の研究機関と共同研究を進め、臨床現場で多くの治癒実績を挙げる。アメリカ心身医学会学術賞、日本心身医学会池見賞など学会受賞多数。国内外での学術論文と著書は100編を超える。著書に『幸福感の強い人、弱い人』(幸福の科学出版)、『ポジティブ三世療法』(パレード)など多数。

【関連サイト】

ハッピースマイルクリニック公式サイト

http://hs-cl.com/

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【関連書籍】

幸福の科学出版 『幸福感の強い人弱い人 最新ポジティブ心理学の信念の科学』 千田要一著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=780

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