提供:Universal Images Group/アフロ

2019年1月号記事

Book

Interview

浮世絵が西洋美術を近代化させた

世界一有名な肖像画「モナ・リザ」と並ぶ知名度を誇る「神奈川沖浪裏」。
なぜ葛飾北斎(1760~1849年)の作品は、今も人々を魅力するのか。
このほど発刊された『知られざる北斎』の著者に話を聞いた。

ノンフィクションライター

神山 典士

プロフィール

(こうやま・のりお) 1960年埼玉県生まれ。第3回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第45回大宅壮一ノンフィクション賞・雑誌部門を受賞した。著書に『ライオンの夢 コンデ・コマ=前田光世伝』など多数。

『知られざる北斎』

幻冬舎 神山典士 著

ここ数年、海外では「葛飾北斎ブーム」が起きています。なぜ記念の年でもないのに、北斎の展覧会が開催されているのかを知りたくて取材しました。すると、北斎は日本人が思っている以上に世界で評価され、さらに日本人が今知るべき人物であることが分かりました。

浮世絵は西洋人の黒船だった

北斎が手掛けた浮世絵は、世界的な画家でフランス印象派のゴッホやモネ、セザンヌ、ドガらに影響を与えたことで知られています。画家ムンクや、「考える人」で有名な彫刻家ロダン、作曲家ドビュッシー、小説『ムーミン』の著者ヤンソンも、北斎作品の愛好家でした。

光や陰影による色調が特徴的な印象派の画家にとって、浮世絵は黒船のような存在でした。極東アジアから現れた見たこともない作風にショックを受けた彼らは、貪るように作品を収集。モネはアトリエに浮世絵を所狭しと飾り、約500点所有したゴッホは「私の全ての作品は、日本の美術の広がりをベースにしている」と語っています。

19世紀末までの西洋絵画のテーマは「神様」が中心でした。一方、「神奈川沖浪裏」は自然がメインです。波が主人公になることに驚いた印象派は、そこから着想を得て、従来の概念にとらわれない作品を創作し、西洋近代絵画史を築き上げます。つまり、浮世絵が西洋美術を近代化させたのです。

当時の日本は、福沢諭吉が「日本は西洋文化を受け入れ、文明を開化すべきだ」と言っていた時代です。ところがヨーロッパでは、日本文化が高く評価されていたのです。