《本記事のポイント》

  • アメリカが「核合意」を離脱した理由(1)中東の「核保有の連鎖」にストップ
  • 理由(2)イランのイスラム体制を変え、「民主化」を目指す
  • 理由(3)中国の影響力を排除する

トランプ米政権が「イラン核合意」から離脱し、制裁を一部実施したことで、石油価格が高騰している。トランプ政権は、中間選挙の前日である11月5日には、すべての制裁を再開する方針であり、制裁に同調しない国にも制裁を科すとしている。

日本は、1953年の「日章丸事件」以降、イランの原油を輸入してきた。日本政府はそうした歴史的な関係により、この関係を維持する意向を示しているが、石油会社は10月にも輸入をゼロにする方向で調整を開始。日本は核合意にどう対応すべきなのか――。

イランの原油は歳入の3割

アメリカの制裁で最も打撃を被るのは、「イランの原油」だ。イランは輸出の7割、国家歳入の3割を原油で賄っており、これがストップすれば、国家の屋台骨が一気に揺らぐ。

イランの原油を輸入しているのは、中国が26%、インドが23%、欧州連合(EU)が20%、韓国が11%、トルコが7%、日本が5%となっている。

中国やインド、トルコは制裁に反発し、トルコとアメリカは一触即発の状態となっている。トルコは、食料の輸入面でもイランに大きく依存しているためだ。

一方、EUの一員であるフランスとイタリアは、表向きは制裁に反対している。だが、フランスの石油大手トタルが20日、イランの「南パルス天然ガス田」の開発計画から撤退を表明。イタリアも、イランの事業を縮小・撤退する方向で動いている。

対するアメリカは、イランからほとんど目ぼしいものを輸入していない。原油の輸入はゼロで、輸入品は絨毯や食品などに限られている。

アメリカにとって、イランへの制裁は痛くもかゆくもないというわけだ。

アメリカは原油高に対策をとる

しかし、イランへの制裁を再開すれば、原油の国際価格が高騰するのは避けられない。そうすれば、アメリカ国民の生活を直撃し、中間選挙にも影響する。

そのため、アメリカのエネルギー省は20日、非常事態に備えた石油備蓄を放出(全体の2%)し、国内のガソリン価格が上がらないように調整している。放出期間は、10月1日から11月30日であり、中間選挙を意識しているのは明らかだ。

さらにアメリカは6月末に、友好国のサウジアラビアと同国の石油を増産することで合意したという。そして、貿易摩擦を抱える他国には、アメリカ産の石油・天然ガスを買うように働きかけている。

合意離脱の理由(1)「核保有の連鎖」にストップ

トランプ大統領が「イラン核合意」を離脱した理由は何か。本誌・本欄でも述べているが、最大の懸念は、やはり「イランの核開発」にある。

合意について、トランプ氏は8月、「イランの核兵器保有への道を完全に絶つという根本的な目的を達成することができないどころか、虐殺や暴力、混乱を拡大し続ける残忍な独裁政権に、現金という援助を差し伸べるものだ」と批判している。

実際に合意内容は、核開発の時間を遅らせるだけで、「非核化」を保証するものではない。しかも、イランは秘密裏に核開発を行っていた疑惑まで持ち上がっており、合意自体が守られていなかった可能性もある。

時間が経てば、イランも、北朝鮮と同じように核兵器を保有する。もしイランが核を持てば、周辺諸国も核保有の道を歩み、「核保有の連鎖」が起きてしまう。

トランプ大統領は、第三次世界大戦を未然に防ぐためにも、合意の欠陥をなくすよう主張しているが、各国はイランとのビジネスを優先し、再交渉に応じようとしていない。イランの軍事費は、合意後に4割増えたが、その資金源が各国との貿易増加にあったことは間違いない。

そこでアメリカは、資金源を断つために合意から離脱し、制裁を再開したというわけだ。つまり制裁は、将来の戦争を防ぐ「平和的なアプローチ」であることを意味する。

合意離脱理(2)イランの「民主化」

もう一つの狙いは、イスラム体制によって抑圧されているイラン国民を自由にすることにある。

日本在住のイラン人は、本誌の取材に「政府は、中東国への軍事介入に多額の資金を投入し、イラン人の多くは、イスラム体制は腐敗していると感じています。体制の腐敗は長い年月をかけて進んでおり、腐敗を防ぐ厳格なルールもありません」(2018年7月号)と語っている。

イラン国内では、民主化を求める反政府デモが連日のように起きている。アメリカは、制裁でイラン政府を圧迫しつつ、イラン国民の「民主化」への機運を後押ししたい狙いがある。

合意離脱理由(3)中国の影響力排除

さらにイランは核合意後、急速に「中国依存度」を高めている点も見落としてはならない。

イランは中東最大の自動車市場の国。そのうち、中国メーカーが市場シェアの1割を占め、存在感を示している。中国は、先のフランスが手放したガス田の権益を引き継ぐ方向で進んでいる。

またイランは、中国が進める「一帯一路」プロジェクトに協力姿勢を見せ、2017年の中国との貿易額も約371億ドルに達している。中国としても、一帯一路の沿線国としてイランを重要視している。

トランプ大統領は、中東で高まる「中国の影響力」を排除させるために、制裁を発動した。

日本はアメリカの石油調達で貿易摩擦解消

こうして見ると、日本は、核合意を支持すべきか、アメリカに同調すべきか、いずれの道を選ぶべきだろうか。

合意を支持する人達は、トランプ大統領の外交を「無節操」と批判し、「イランの石油を手放すべきではない」と主張している。しかし先述したように、トランプ大統領は中間選挙を意識しながらも、極めて戦略的に合意から離脱したことが分かる。

日本としては、イランの原油が減るのは手痛いが、調達先を変えたり、「シェールガス革命」で石油・天然ガスの増産を進めるアメリカからの調達量を増やしたりすればいいだろう。後者であれば、日本は対米貿易赤字を削減でき、アメリカとの貿易摩擦を解消させることにもなる。

自由・民主主義国の日本が、イランとの関係を密にしていくには、イランの自由化・民主化が必要になる。現時点では、日本はナショナリズムをむき出しにして、核合意の維持に固執すべきではないと言えるだろう。

(山本慧)

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