写真:ロイター/アフロ

2018年8月号記事

編集長コラム Monthly  Column

米朝会談は世界史的な大転換だった

――トランプ・金正恩「同盟」で中国包囲網?

トランプ大統領と金正恩委員長による初の米朝首脳会談は、多くのメディアが「非核化の方法や期限など具体的な合意がない」などとトランプ氏を批判している。

一方で、「具体的な表現がないのは北朝鮮内部の反対派をなだめるため」などと、トランプ氏の"成果"を評価する報道もある。

金正恩氏は「負けを認めた」

どちらが本当なのか。幸福の科学の大川隆法総裁が会談翌日の6月13日に収録した金氏の実妹の金与正氏の守護霊霊言は、真実に近づく重要な材料を提供している。

与正氏は3月以降、中国や韓国、アメリカとの一連の首脳会談に同行し、最側近としての存在感を示してきた。

与正氏の守護霊が語ったポイントは、 「北朝鮮が負けを認めた。が、トランプ氏が表向きは金氏に花を持たせ、対等な米朝関係を演出。今後、北朝鮮は非核化を進めると共に、国を開いてシンガポールのような繁栄を目指す」 という驚くべき内容だった。

トランプ氏は、政治指導者というより宗教家や父親的な接し方で、正恩氏のこの「改心」を引き出したという。

与正氏の守護霊は、トランプ氏が「体制保証」を約束したのは、非核化を"独裁的"に進めさせるためだと説明。また、今後、北朝鮮内の軍部など「攘夷派」が「開国(経済自由化)」路線に反発すると見られ、クーデターなどから正恩氏を守る目的も「体制保証」に含まれると明らかにした(関連記事 「 金与正守護霊、チャーチル霊、キッシンジャー守護霊の霊言から読み解く 米朝会談の真の勝者は? 」)。

動き出した「無血開城」

この「解説」をもとに北朝鮮のこれまでを振り返れば、確かにその通りに動いてきたように見える。

今年1月の金正恩氏の新年の辞では、経済制裁のため「すべてのものが足りない」と悲鳴を上げ、事実上の「敗北宣言」を行っていた。

アメリカの軍事シミュレーションでは、米軍は北朝鮮の数千カ所の軍事・政治拠点、核関連施設を短期間で壊滅させることができ、北朝鮮は"最期"の一太刀を浴びせるしかできないことは明らかだった。

6月12日は、北朝鮮側にだけ会談やランチの模様を撮影させている。アメリカ側では一切知らされなかったトランプ・正恩両氏が親しげに話し合う様子が北朝鮮内で翌日、数十分にわたって報道された。

トランプ氏が正恩氏に接する表情や態度は、父親が久しぶりに会った息子に接するかのような穏やかなものだった。

この映像には、正恩氏がシンガポールの街中やリゾート施設を視察する様子も含まれ、他国の繁栄ぶりを北朝鮮国民に広く知らせる結果となった。合意内容についても、「段階的な非核化」を進めると国内向けに発表。 「非核化」と「開国」という「無血開城」がゆっくりとだが動き始めている

写真:ロイター/アフロ

トランプ氏の賭け

「段階的」にせざるをえないのは、正恩氏が2011年のトップ就任後、軍部との権力闘争を繰り広げてきたからだろう。

正恩氏は当初、軍の権限や核開発がすべてに優先する「先軍政治」を尊重していた。それを13年に核開発と経済建設の「並進路線」に転換し、さらには今年4月、「経済建設優先」を宣言するまでになった。つまり、軍に集中した権力を奪う「暗闘」が繰り広げられていたのだ。

今後、軍部や長老の「反乱」がいつ起きてもおかしくない。トランプ氏は会談直後の記者会見で「半年後に間違いだったと言うかもしれない」と述べ、どう転ぶか分からない"賭け"だという見方を示した。

前月号の本欄では「米朝会談は決裂がベスト」と書いた。中途半端な合意(次ページ図(1)、(2))をするよりも、決裂して経済制裁を強めるか武力制裁に移行するほうが、北朝鮮の「悪魔の体制」を崩壊させることができ、アメリカや日本にとってのひとまずの勝利となるからだ(図(3)、(4))。

実はこの4つのパターン以外に、北朝鮮が「非核化」を受け入れると同時に、米日韓などの経済支援も受けて「経済の自由化」に舵を切るパターン(図(0))も検討したが、「正恩氏がそこまで『改心』し、『無血開城』することはないだろう」と端から排除していた。

ふつうはあり得ないことをやり遂げようとしているトランプ氏の手腕には、脱帽するしかない。

(図) 米朝首脳会談 どうすればトランプの「勝利」だったのか?

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6月12日 米朝首脳会談

「非核化」「経済支援」で合意

(0) 米日韓の「支援」受け入れ

核廃棄を進めながら、「開国」し経済開発。

徐々に経済を自由化

金正恩氏が、シンガポールのような「独裁」を維持しつつ、経済繁栄を追求する体制への転換を決断。

理想的な無血開城

ただ、金正恩体制が続くかどうかは分からない。

6月12日 米朝首脳会談

「非核化」で合意

(1)「段階的」廃棄を認める

北朝鮮が主張する「段階的な核廃棄」をアメリカが認める。

金正恩氏、時間稼ぎに成功

北はトランプ氏の退任まで時間を稼ぎ、次の大統領になった時に核開発を再開。

トランプの敗北

「悪魔の体制」が維持され、日本の危機に。

6月12日 米朝首脳会談

「非核化」で合意

(2)「完全非核化」をのませる(リビア方式)

アメリカが要求する「核廃棄後に制裁解除」を北朝鮮が受け入れる。その見返りとして在韓米軍は縮小・撤退へ。

中朝勢力が半島南端に

米軍が去り、中国勢力下の統一朝鮮が誕生へ。

トランプの敗北

「悪魔の体制」が維持され、日本の危機に。

6月12日 米朝首脳会談

合意に至らず決裂

(3)経済制裁を強化

アメリカは経済制裁を強化し、金正恩氏が亡命(もしくはクーデター)。

強制的な無血開城

北朝鮮を完全武装解除。

「悪魔の体制」が崩壊

ひとまずトランプの勝利。

6月12日 米朝首脳会談

合意に至らず決裂

(4)武力制裁で金体制が崩壊

アメリカが武力制裁し、金正恩体制が崩壊。

短期間で決着

戦後の統治の問題へと移行。

「悪魔の体制」が崩壊

ひとまずトランプの勝利。

中国包囲網に北朝鮮も?

これで一時的だが、「非核化」「開国」を進めるために正恩氏を「体制保証」する、緩やかな「米朝同盟」ができた 。「経済自由化」後も金正恩体制が続くのか分からないが、トランプ氏が進める「中国攻略」において重要な布石となる。

トランプ政権は、「中国が不公正なやり方で対米貿易黒字を拡大させた」として、制裁を連発する対中「貿易戦争」に突入した。その司令塔のピーター・ナバロ国家通商会議委員長は、「兵糧攻め」によって中国の覇権拡大を阻止する考えだ。

トランプ氏は今夏にプーチン露大統領との会談を模索し、米露協調時代を開こうとしている。これまでアメリカを軸に日本や台湾、オーストラリア、インドなどで、 覇権・軍拡主義の中国に対抗する包囲網を形成してきた。ここにロシア、そして北朝鮮までもが加わる展開が見えてくる

アジアの共産主義体制の一角が崩れる歴史的な大転換を後戻りさせないためには、日本は北朝鮮に思い切った経済支援を行い、北朝鮮国民に「繁栄の味」を経験させるしかない 。拉致被害者の帰国はもちろん大事だが、大局を見失わないようにしたい。

超タカ派と超ハト派の両立

トランプ氏への批判が強いのは、外交・軍事の「素人」と見られているからだろう。トランプ氏は定石からあまりにかけ離れていて、「玄人」の外交・軍事やメディアの関係者には、論評しようがないのかもしれない。

対北朝鮮でトランプ氏は、強硬な「超タカ派」路線から、融和的な「超ハト派」路線へとスタンスを変えた。国際政治学の枠組みで言えば、リアリズム(現実主義)とリベラリズム(国際協調主義、理想主義)の両極端を振り子のように動いた。

確かにトランプ氏の「ディール」は理解を超えるが、過去に 歴史的な大転換を成し遂げた政治指導者は、みな「超タカ派」と「超ハト派」の両方をあわせ持っていた

ソ連との冷戦を終わらせたレーガン米大統領(在任1981~89年)は、敵の核攻撃の無力化を目指した「戦略防衛構想(スターウォーズ計画)」を打ち出し、ソ連との軍拡競争を演じた「超タカ派」だ。

一方で、「私の夢は核兵器のない世界」という信念を持った「超ハト派」の平和主義者でもあった。

政治指導者の「世界への愛」

奴隷制度に終止符を打ったリンカン米大統領(在任1861~65年)はもちろん、奴隷解放を目指した理想主義者だ。奴隷制をめぐって合衆国が分裂するのを何としても避けたい平和主義者でもあった。

しかしいったん南北戦争が始まると、自ら指揮を執り、電信を通じて細かく戦場や戦術を指示し、動きの鈍い将軍たちを「とことん噛みつき、噛み殺せ」と叱り飛ばした。

「超タカ派」と「超ハト派」の矛盾するものを統合しているのが「世界への愛」ともいうべきものだ 。リンカンは「この国が神の下に新たな自由を手にしますように」と神に祈り、奴隷解放を実現した。レーガンは「(ソ連の)彼らが神を知る喜びを発見することを祈りましょう」と語り、共産主義と対決した。トランプ氏は「創造主から与えられた自由」を実現するために、北朝鮮や中国の解放へと突き進んでいる。

「世界への愛」の強さが政治指導者の器を形づくっているといえる。

提供:White House/UPI/アフロ

プラトンの「慎重と勇気」

対中国でトランプ政権は、「超タカ派」的に貿易戦争を仕掛ける一方、「超ハト派」的に宗教弾圧など人権問題を厳しく糾弾する。

日本もトランプ氏の貿易政策を全面支持し、「兵糧攻め」に加わるべきだろう。中国が「一帯一路」構想を延命させるため、日本の資金力を頼ってきているが、「NO」を突きつけ、歩調を合わせたい。アメリカ頼みとの決別を意味する核装備など国防強化も、「タカ派」路線に不可欠だ。

一方、唐の時代を中心に仏教を伝えてもらった恩返しとして、日本の仏教精神や共存共栄の日本的経営を学んでもらう「ハト派」的アプローチも押し広げたい。

ふつうの政治家は「タカ派」か「ハト派」かに偏るが、両方のアプローチを自在に駆使できる指導者が世界史的な大転換を起こす。プラトンが哲人政治家の条件とした「慎重と勇気の両立」や、孔子が『論語』で指導者の徳について語った「智・仁・勇の融合」にも通じる。

そうした観点から見て初めて、トランプ氏の外交・軍事政策を評価できる。トランプ氏は北朝鮮の非核化でノーベル平和賞が授与される可能性が高まっているが、その先の対中国の仕事は、もはやノーベル賞委員会が判断不能の領域に入るだろう。

日本は、世界史の大転換の波にこのまま呑まれるのか、それとも自ら波を起こす側に立つか。日本の政治指導者の器にかかっている。

(綾織次郎)