基本的人権が与えられていない北朝鮮の人々(Maxim Tupikov / Shutterstock.com)

《本記事のポイント》

  • トランプ政権にとって「非核化」と「人権・体制」問題は不可分
  • ソ連の体制を露骨に「悪」と呼んだレーガン大統領
  • 北朝鮮をめぐる日米の姿勢の違いとは?

北朝鮮に拘束されていた米国人3人が10日、ワシントンに近い空軍基地に到着した。トランプ米大統領は自ら基地に赴き、出迎えた。

この「解放劇」に先立つ2日、米国務省は北朝鮮について「世界で最も抑圧的で人権侵害的な政府のひとつ」として批判する声明を出していた。声明では、約10万人が政治犯収容所に入れられ、国民の基本的人権が奪われていることなども触れられていた。北朝鮮の体制をトータルで批判したといえる。解放劇には、こうした圧力も背景にあったと見られる。

「非核化」と「人権・体制」問題は不可分

なぜアメリカは、会談前にあえて「人権問題」について提起したのか。もちろん、交渉カードにしている面は大きいだろう。

しかしここで見逃してはならないのは、アメリカにとって、そして特にトランプ政権にとって、「北朝鮮の非核化」と「人権・体制の問題」が不可分のものであることだ。

なぜなら、体制そのものについて否定しなければ、「アメリカは核を持っているのに、北朝鮮に核を捨てさせる」ことを、正当化できないためだ。

逆に日本では、北朝鮮の「人権問題」と「核・ミサイル問題」がまるで別問題であるかのような受け止め方が強い。そもそも、メディアも学者も、北朝鮮の体制を表立って批判しない。その認識の違いが、外交力や、その裏づけとなる軍事力の違いに現れ、「拉致問題もなかなか進展がない」という現実につながっている。

ソ連を「悪の帝国」と呼んだ

共産主義の軍事大国と対峙するにあたり、体制への「価値判断」の重要さについて訴えたのが、東西冷戦を終わらせたロナルド・レーガン米大統領だ。レーガン氏はソ連を、「悪の帝国」という、あえて"露骨"な言葉で批判したことで知られている。

その言葉が最初に使われた演説は1983年、キリスト教の福音主義者たちの全国大会で行われた。「悪の帝国」とは、まるでハリウッド映画で出てきそうな言葉だが、ここにレーガン氏の本心、そして、「共産主義 対 自由主義」の構造の本質が現れている。

レーガン氏はこう訴えた。

「(ソ連の)核凍結に関する議論において、うぬぼれた誘惑に注意してください。軽率に東西両方の立場を超越したかのような意見を表明し、『どちら側にも等しく非がある』かのように決め付けたくなる誘惑に注意してください。それは、歴史の真実、そして『悪の帝国』の攻撃的衝動を無視することになります。そして、単に軍拡競争を大きな間違いとしか捉えず、善と悪との(価値判断の)葛藤から逃避することになるのです」

いわゆる「価値中立」的に、共産主義国側の立場も尊重する言論に関して、「それは決して懸命でも冷静でもない」と釘を刺しているのである。

レーガン氏はこうも訴える。

「もちろんアメリカの軍事力は重要です。しかし、『世界で起きている対立は、爆弾やロケット、軍事力によって左右されるものではない』という、私がいつも強調していることを、付け加えさせてください。今日、私たちが直面している真の危機は、精神的なものなのです。根本において、道徳的意志と信仰が試されているのです」

つまり冷戦による危機というのは、上で触れた善悪をめぐる「思想戦」だということだ。

そして「思想戦」の奥にあるものとして、レーガン氏は「信仰」を挙げている。

「西洋世界の危機は、西側の人々が神に無関心であればあるほど大きくなり、共産主義が、人間を神から孤立させる試みに協力するほど大きくなるのです。なぜならマルクス・レーニン主義は、本当は、世界で二番目に古い信仰だからです。エデンの園において、『あなたは神のようになる』という誘惑の言葉と共に唱えられたのが、その発祥だからです」(*)

体制維持や"革命"成就のため、いくらでも人権を蹂躙する共産主義国の発想は、「無神論」に端を発しており、「人間(指導者)が神に成り代われる」という考え方が生んだものだ。

北朝鮮をめぐる日米の姿勢の違いとは?

日本においては、漠然と「人権弾圧は"かわいそう"だからよくない」というレベルで捉えられている向きがある。そのためか、隣国の人権弾圧については無関心だ。相手国の体制そのものに関する「価値判断」は避けるため、外交姿勢もどうしても弱腰になってしまう。

北朝鮮危機を前に、日本人は外交・軍事政策のみならず、自らの「思想性」の中身について顧みる必要があるのではないか。

(*) 共産党員から転向したホイッテカー・チェンバースという人物の文章を引用する形での言葉。

(馬場光太郎)

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