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《本記事のポイント》
- 北朝鮮の金政権が核実験やミサイルの発射実験を中止し、核実験場を廃棄すると宣言
- 具体的な非核化の計画や、既存の核兵器の廃棄については言及なし
- トランプ大統領は米朝会談で北朝鮮に対し、「非核化」のための最大の圧力を
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は20日、「我々にはいかなる核実験、中長距離や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射も必要がなくなった」と述べ、21日から核実験やICBMの発射実験を中止し、北東部、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を廃棄することを宣言した。
具体的な核放棄の道筋は不明
金氏は3月末に訪朝したポンペオ米中央情報局(CIA)長官に、「完全な非核化の意思」を示したと北朝鮮筋が明かしている。北朝鮮の方からアメリカの政権幹部に「非核化」の意思を伝えたことは、大きな進展といえるだろう。
しかし今回の金氏の宣言の中では、国際社会が求める「具体的な核放棄の道筋」には言及していない。
アメリカは米朝首脳会談の議題に「具体的な非核化の措置」を盛り込むよう水面下で交渉を続けている。
注目すべきは、金氏が「北朝鮮の核能力が『検証された』ため、これ以上の実験は不要だ」と述べたことだ。
金氏は「国家核戦力建設という大業を短い期間で完璧に達成した」と強調し、北部にある核実験場は「その使命を終えた」と述べた。しかし、既存の核兵器を放棄することには一言も言及していない。
「口を開けば全部ウソ」
トランプ米大統領は金氏のこの宣言について、ツイッターで、「北朝鮮と世界にとって非常に良い知らせだ。大きな前進だ!」と歓迎したうえで、米朝首脳会談を楽しみにしていると述べた。
しかし、このままでは、「完全な非核化」を目指すアメリカとの交渉は難航することが必至。北朝鮮は米朝首脳会談後に「段階的に非核化」を進めたいと主張しているが、アメリカ側は短期間で「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を進めたいとしている。両者の意見は食い違ったままであり、金氏の宣言ではアメリカ側の要求は満たせない。
9日にトランプ政権の安全保障担当の大統領補佐官に就任した、対北強硬派で知られるジョン・ボルトン氏は、過去にFOXニュースで、「金正恩体制の打倒が必要」と繰り返してきた。
3月9日のFOXニュースでは、「北朝鮮の政権が現在、嘘をついていることを知るにはどうしたらいいか? 彼らの唇が動いていたら、嘘をついていると知ることができる」と発言。金正恩政権の融和的な姿勢や発言を信用していないことがうかがえる。
「融和ムード」に流されてはならない
北朝鮮は今年に入り、急激に融和路線に転回している。1月の新年の辞で、韓国との関係改善に言及し、2月の平昌冬季五輪では南北の「融和ムード」の醸成に成功した。3月末に中国を電撃訪問して、習近平国家主席と会談し、中国を味方につけることを試みた。そして来週の4月27日には、韓国の文在寅大統領と会談する。
「アメリカが軍事攻撃しなくても、対話で解決できるなら、それに越したことはない」と、対話による解決を期待する向きもあるが、この「融和ムード」に流されるのは危険だ。
北朝鮮はこれまで、核開発の凍結を約束し、その後も秘密裏に開発を続けてきた。
2000年に平壌で開かれた金大中大統領と金正日総書記による初の南北首脳会談の際、国際社会はまさに現在のように、「南北融和ムード全開」になった。南北会談直後に当時のオルブライト米国務長官が訪朝し、金正日氏と会談した。北朝鮮に体制の維持と経済援助を約束したが、その会談で金正日氏が約束した「非核化」は、ついに実現しなかった。
2005年の6カ国協議でも、北朝鮮は核兵器と核開発の放棄に合意したが、翌年、北朝鮮は初の核実験を行い、早速その約束を反故にした。
国際社会が北朝鮮にだまされ続けてきた歴史を考えれば、トランプ氏が米朝首脳会談で目指すべきは「融和による解決」ではない。金氏の本心を見極め、非核化に向けた最大限の圧力をかけることで、金氏に「無血開城」を迫る気概が必要だ。
(小林真由美)
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