ジョン・ボルトン大統領補佐官(画像はShutterstock.com)。

《本記事のポイント》

  • ジョン・ボルトン米大統領補佐官が台湾を訪問する可能性が浮上し、中国は反発
  • 米台関係は安全保障面で着実に強化されている
  • 台湾との関係が法的にあいまいな日本は、「日本版台湾関係法」の制定を

アメリカがシリアの化学兵器工場を攻撃し、北朝鮮に圧力を加える中、中国へのけん制も着々と進んでいる。

トランプ政権は発足以来、台湾関係を重視する姿勢を見せてきたが、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、6月に台湾を訪問する可能性が浮上している。これに対し、中国の台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の馬暁光(マー・シャオグアン)報道官は、このほど開かれた記者会見で「台湾カードを切ることはすべて徒労に終わる」と述べ、反発している。

ボルトン氏は、「海洋の自由を守り、一方的な領土併合を防ぐことは米国の核心的利益だ」「米軍の台湾駐留によって東アジアの軍事力を強化できる」などと述べ、台湾の安全保障に関心を向ける人物だ。そんな政府高官が台湾を訪れれば、中国が反発するのは当然だろう。

米台関係は安全保障面で強化

アメリカ政府高官の台湾訪問は、1979年に中国と国交正常化して以来、中国への配慮によって抑制されていた。それを可能にしたのが、3月に成立した「台湾旅行法」である。

注目すべきは、同法案が上院・下院ともに全会一致で成立した点である。トランプ政権だけでなく、議員全体も、中国が台湾を浸食している現実に懸念を持っていることを示唆している。

法案が成立した数日後の3月20日、国務省のアレックス・ウォン次官補代理(東アジア・太平洋担当)が、さっそく台湾を訪問。台湾の蔡英文総統らが出席した在台北米国商工会議所主催のパーティーに参加し、台湾重視の姿勢を印象付けた。

4月上旬には、トランプ政権がアメリカ企業に対し、潜水艦の建造計画を進める台湾との商談を許可したことが判明。この商談を具体化する形として、アメリカの軍事企業と技術協力を議論するフォーラムが、5月10日に台湾で初めて開催される。

「一つの中国政策」と、「一つの中国原則」は違う

確認しておきたいのは、トランプ大統領が昨年2月に行った、中国の習近平国家主席との電話会談で述べた「一つの中国政策」を尊重するとの立場は変わっていない点だ。

実は、アメリカが主張する「一つの中国政策」とは異なる考えとして、中国が主張する「一つの中国原則」というものがある。

簡単に言えば、原則には「台湾は中国固有の領土」という意味があり、中国はこの考えを既成事実化させたいのだ(原則の詳細は、(1)中国は一つである、(2)台湾は中国の不可分の一部、(3)中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府、の3点からなる)。日本のマスコミは、一つの中国「政策」と「原則」を混同して報じるケースが散見され、いつの間にか、中国側の主張が広がっている。

これについて、アメリカ政府は一貫して、「一つの中国原則には異論を唱えないが、台湾の安全保障には関与する」という「一つの中国政策」を踏襲している。具体的には、「台湾関係法」に基づき、武器を台湾に供与している。

つまり、アメリカの一連の動きは、台湾の安全保障への関与を強めるものであって、政策変更を意味しない。

ただ、「一つの中国」の議論自体があいまいであるため、中国にとっては、なし崩し的に米台関係が強化されるのは困る。そのため、今回のニュースのように、中国は、逐一アメリカにくぎを刺しているというわけだ。

日本も「台湾関係法」の制定を

翻って、日本はどうか。

日本の台湾に対する立場は、米台関係以上にあいまいである。日本は、アメリカのような台湾関係法を制定しておらず、法的な裏付けがない状態で、台湾との交流を深めている。しかし、法律がなければ、日中の力関係によっては、日台交流がいつでも途絶される可能性がある。

安倍晋三首相が"得意"とする外交は、「人類の普遍的価値である思想・表現・言論の自由の十全な実現」「海洋における法とルールの支配の実現」などからなる、いわゆる安倍ドクトリンに基づくが、それらに合致する台湾との関係強化が進まないのはなぜなのか。台湾との関係強化は、人類の普遍的価値を広げる象徴になるはずだ。

また、安倍外交は「中国へのけん制」という意図があるのに、政府・与党内から「日本版台湾関係法」の制定を求める声は影を潜めている。だが、トランプ政権の動きは、同法を制定する好機として捉え、日本の安全保障と不可分の関係である台湾政策を強化すべきではないか。

(山本慧)

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