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《本記事のポイント》
- アメリカを除いたTPP11が大筋合意した
- 「中国包囲網」という意味で、TPPの有効性はほとんどなくなった
- 日本はTPPへのアメリカの参加にこだわらず経済的な「中国包囲網」を築く努力を
環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する11カ国は9日夜の閣僚会合で、新たなTPP協定を締結することで大筋合意した。
トランプ米大統領が今年1月にTPPからの離脱を表明したため、約500に上るルールのうち、オバマ米前政権が求めていた10~20のルールは凍結。その一方で、関税の撤廃や輸入枠は維持された。
アメリカが離脱したため、TPP11カ国の名目国内総生産(GDP)の規模は、アメリカが参加した場合の3分の1、人口と貿易額は約半分に縮小した。それでも、名目GDPは全世界の13%、人口は7%、貿易額は15%を占める(10日付日本経済新聞)。
TPPで中国をけん制できるのか
オバマ前政権が推進してきたTPPには、「中国包囲網」という裏の目的があった。
中国は、日本、韓国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の締結を主導して進めている。RCEPは「中国版TPP」ともいえる通商協定だ。日本政府がTPP協定に固執し続けたのも、RCEPがアジアの通商ルールとして定着することを阻止するためだった。
TPPには、「国有企業の優遇禁止」や「知的財産の保護」などのルールが盛り込まれているが、これはこのルールを守っていない中国を念頭に置いている。つまり今のままでは中国はTPPに参加できないため、こうしたルールを守るよう、中国に暗に迫っていたということだ。
二国間交渉で、中国を食い止めることができるか
だが、アメリカがTPPを離脱したことで、「中国包囲網」としてのTPPの有効性は、ほとんどなくなったと言える。
トランプ大統領が「TPPは正しい考え方ではなく、我々は貿易でTPP以上の成果を得られる」とTPPを否定する理由は、関税自主権を行使して、中国などとの貿易不均衡を是正したいからだ。昨年のアメリカの対中貿易赤字は3470億ドル(約40兆円)。これを関税などによって解消しようとしている。
「弱いアメリカ」がTPP参加国とともに中国経済に対抗する方針から、「強いアメリカ」として二国間交渉で中国に臨む方針に変わったということだ。
ただ一方で、9日に行われた米中首脳会談では約2500億ドル(約28兆円)の商談がまとまった。トランプ政権内には、大統領上級顧問のクシュナー氏を始め、中国との経済的な結びつきを重視する「キッシンジャー路線」の人物も多い。米経済界にも、親中派は数多くいる。
中国は、アメリカを抜いて世界の覇権を握ることを目指しているが、まだアメリカと全面対決できるほどの力があるわけではない。今回、中国が打ち出した全面的な協力姿勢の奥に、危険な野望があることを忘れてはいけない。
今後、日本はTPPへのアメリカの参加にこだわらず、他のアジア諸国を主導し、経済的な「中国包囲網」を築いていく必要がある。
(山本泉)
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