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《本記事のポイント》
- 「加計・森友」問題があぶりだした安倍首相の「封建主義」的な傾向
- 閣僚・党役員人事やマスコミ対策にも見える「ご恩と奉公」
- 「御恩」の源は「勝ち取った土地」ではなく、「国民の信任」と「税金」
安倍晋三首相は、8月上旬に内閣改造・自民党役員人事の刷新を行う、と報じられている。
「加計学園」「森友学園」問題などの影響で、7月の東京都議選では自民党は惨敗。安倍内閣への支持率は30%を切り、政権成立以来、最低の数字となった。
「憲法改正」などを狙うに当たり、政権のイメージアップを図る必要に迫られている。
「加計学園」「森友学園」は「御恩と奉公」!?
政権にとってまさかの爆弾となった加計・森友学園問題で浮かび上がったのは、安倍政権が民主主義だけではなく、「封建主義」的な原理の中で動いているということだ。
封建主義は、鎌倉時代の「御恩と奉公」のように、「領主が封土を与えることで、臣下が忠義を尽くす」という主従関係のことだ。
森友学園問題では、財務省が、新設される小学校のため、国有地を破格の安さで学園側に払い下げた。背景には、「理事長と首相夫人の個人的なつながりがあったのではないか」と指摘されている。
加計学園問題では、文部科学省が、同学園の「獣医学部」新設の認可を渋っていたことに対して、官邸側が認可するよう圧力をかけたとされている。これが問題視されているのは、学園の理事長が、安倍晋三首相が「腹心の友」とまで呼ぶ、長年の友人だったためだ。
安倍首相が普段から、民間人の有力者と個人的なつながりを持ち、時には利益供与をすることで、忠実な支援者を増やそうとしていることが伺える。
二階幹事長が安倍首相に頭が上がらないわけ
安倍首相の自民党内の人事にも、「御恩と奉公」的な構図が見て取れる。
代表的なのは、二階俊博幹事長の人事だ。谷垣禎一前幹事長に代わり、78歳という高齢で、「もうキャリアとしてピークを超えた」と自他共に思っていた二階氏の幹事長起用は、大きな驚きを生んだ。
二階氏は、この「棚ぼた」的な信任に感激し、対中政策などで安倍首相と意見を異にするにもかかわらず、全力で首相に尽くしている。自民党総裁の「任期延長論」をぶち上げ、「安倍総理の後は、安倍総理です」と言ったのも、二階氏だ。
麻生太郎元首相も副総理に抜てきされたことも、恩義を感じているだろう。麻生氏は、2009年に自民党が民主党に大敗した際の首相であり、いわば「戦犯」だ。そんな麻生氏にとって、「自民党復活」の立役者であり、かつ「戦犯」の自分たちを取り立てくれた安倍首相には、表立っては逆らえないと指摘されている。
ただ、こうした人事には、副作用もある。
小泉進次郎氏や小池百合子氏など、能力があり、将来自民党を担う可能性がありながら、安倍首相に十分な恩義を示さない政治家は、冷遇されてきた。「恩義」を発生させるのが上手い政治は、同時に激しい「えこひいき」につながる。
まるで江戸時代において、「関ケ原の戦い」以前より徳川家に仕えていたかという「忠義」で、譜代大名と外様大名を区別したような構図に見える。
マスコミ対策にも「御恩と奉公」
マスコミ対策の中にも、「御恩と奉公」的な手法が見える。安倍首相は、大手の新聞社やテレビ局の幹部と何回も会食の場を設け、「反安倍」的な論調を抑えつけている。
例えば、消費税の増税延期を発表した翌日の2016年6月2日には、朝日新聞の編集委員や、毎日新聞の特別編集委員らと食事をしている。
また、甘利明・前経済再生担当相の金銭問題が浮上した同年1月20日には、新聞やテレビの関係者と相次いで懇談し、その翌日にも、読売新聞の渡邉恒雄会長らと食事をした。
第2次安倍政権が発足以来、会食回数は2016年6月時点で84回を超えた。民主党政権の3年3カ月で、首相3人の会食数が計11回だったことと比較すると、その頻度は異常だ。
「御恩」の源は「国民の負託」と「税金」
鎌倉時代や江戸時代の「封建主義」においては、「御恩」の源となる土地は、一応、将軍が勝ち取った形になっている。
しかし、安倍首相が「御恩」の源にしている閣僚などの人事権は、国民の負託によって生まれている。そして、マスコミとの会食費用は、税金から出ている。
国民の負託や税金を、「個人的な忠義」に基づいて分配する「えこひいき」政治は、健全と言えるだろうか。
(馬場光太郎)
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