アメリカのドナルド・トランプ次期大統領は、大統領選を通して「中国を為替操作国に認定する。中国製品に45%の関税をかける」と主張してきた。
ところでこの「為替操作国」とは何なのか。本欄では、中国が行っている為替操作について解説する。
為替操作とは、政府や中央銀行が直接、自国通貨を売り買いする為替介入を行うこと。そしてアメリカが為替操作国に認定する、とは、アメリカとの貿易を有利にするために為替操作を行ったと、アメリカ財務省が認定した国を指す。通貨安になると高い商品でも安く輸出できるため、中国は人民元安に保つことで貿易黒字を拡大してきた。これに対してトランプ氏は怒っているのだ。
1994年以降、アメリカから為替操作国に認定された国はないが、もし為替操作国に認定されると、アメリカから通貨を適正なレートに保つよう求められ、必要に応じて関税が課されることもある。
人民元レートの操作をしてきた中国
ここまで為替操作について解説したが、実際に中国は、どのように為替操作を行ってきたのか。
中国は2005年に、ドルと人民元の為替レートが連動する「ドル連動制」から、為替レートを市場メカニズムに任せつつも、政府が為替介入も行なう「管理変動相場制」に移行した。しかし移行後も、中国政府は為替介入を続け、人民元の為替レートを大幅に安く保ってきた。
恣意的な人民元の切り上げや切り下げは何度も行われ、最近では2015年8月に行った人民元の大幅切り下げが、アメリカ政府を激怒させた。
「中国は為替操作国」と指摘しているのは、トランプ氏だけではない。ノーベル経済学賞の受賞者で、安倍晋三首相に消費増税の延期を求めた国際経済学者のポール・クルーグマン氏も、その一人だ。クルーグマン氏は、中国製品に25%の関税をかけるべきだと指摘したこともある。
資本が流出して人民元安が進む
これまで人民元安を保ってきた中国だが、2015年8月以降、為替操作をしていないにもかかわらず、人民元安が進んでいる。中国経済の低迷や企業債務の増大、バブル崩壊に対して懸念が高まっており、中国市場から資本が流出しているためだ。
さらに、2016年11月にトランプ氏が次期大統領に当選すると、中国からの資金流出は加速。その資金が流れ込んでいるのは、アメリカだ。中国政府は外貨準備を取り崩し、ドルを売って人民元を買っているが、人民元安に歯止めがかからない。
中国の黒字を減らすアメリカの戦略
トランプ氏は12月、新たに通商政策を担う「国家通商会議」を創設すると発表し、そのトップに対中強硬派のピーター・ナヴァロ米カリフォルニア大教授を指名した。ナヴァロ氏は、安い中国製品がアメリカに流入し、国内の雇用を脅かしていると主張してきた国際経済学者だ。
国家通商会議が通商政策の司令塔となり、通商代表部(USTR)や商務省が、実際の通商交渉を行う見通しだ。特にUSTRは、中国などとの不均衡な貿易の是正に専念すると見られる。
アメリカと中国の経済戦争はすでに始まっている。アメリカは、関税などを使って中国に圧力をかけ、中国の貿易黒字を減らし、国力を弱める戦略を立てている。日本も米中の動きを注視していく必要がある。
(山本泉)
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