日本の研究者が、今年も快挙を成し遂げた。東京工業大学の大隅良典栄誉教授(71)が、2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
受賞理由は、「細胞内でたんぱく質などをアミノ酸にまで分解し、再利用する」という「細胞の自食作用(オートファジー)」の仕組みを見つけたことだ。
いらないタンパク質を"掃除"する仕組み
1988年、東大助教授だった大隅氏は、たんぱく質が細胞内の小器官に取り込まれて分解される現象を、顕微鏡で酵母を観察している最中に発見。「大変感動し、何時間も顕微鏡を見ていた」(大隅氏)。1993年には、オートファジーに関わる遺伝子を特定した。
オートファジーは、人間を含む哺乳類でも起こっており、これが正常に行われないとさまざまな病気を引き起こすことが分かっている。オートファジーの研究は、がんやパーキンソン病、糖尿病などにも関係しており、現在、治療薬の開発が進められている。
大隅氏がこの研究を始めた当時は、オートファジーの分野はほとんど注目されておらず、論文数も年に10本程度だった。だが、今では年3000件もの論文が出るほど、重要な研究分野となっている。
「人のやらないことをやる」ことの大切さ
大隅氏の教え子で医師の水島昇氏は、大隅氏について「根っからの研究好きの学者だと思う。役に立つことを前提にせず、本質的に面白いことを堂々とできる人」と話す(4日付日本経済新聞)。
福岡出身・九州男児の大隅氏は、喜怒哀楽をあまり表に出さないが、基礎研究への思いは人一倍だ。大隅氏は受賞決定後の記者会見で、「人がやらないことをやろうという思いから、酵母の研究を始めた」と話した。
大隅氏は、東京大教養学部に進んだが、博士課程を終えても就職先がなかったため、仕方なく米ロックフェラー大学に進学。帰国後は東大理学部の研究室の助手になり、酵母の細胞内にある小器官「液胞」を実験テーマに選んだ。当時、液胞は「細胞内のごみ溜め」とされ、研究対象として人気はなかった。
基礎研究は真理の探究でもある
基礎研究は、何に役に立つか分からない研究も多い。実際、そのほとんどは役に立たない。大隅氏も受賞記者会見で、「最初からがんや寿命につながると確信していたわけではない」「"役に立つ"という言葉が、とても社会をダメにしていると思う。本当に役に立つのは、10年後か20年後か、あるいは100年後かもしれない。社会が将来を見据えて科学を一つの文化として認めてくれるようにならないかと強く願っている」と語っている。
特に、数学や理論物理学は、"役に立たないもの"の代名詞ともいえるが、普遍的な法則の発見が、実用面への応用につながる。古い例だが、19世紀、ファラデーが電気力と磁気力が密接な関係にあること(電磁誘導)を発見し、マクスウェルが方程式にまとめた。この発見が、現在の発電機やICカード、IH調理器などの技術につながっている。「どこに世紀の大発見があるか分からない」という意味で、基礎研究を疎かにしてはならない。
また大隅氏が、未知なるものを探究したいと、好奇心のままに研究していた点も興味深い。サイエンスには、「世の中の暮らしをよくする」という面もあるが、「真理の探究」という面もある。神が創られた世界の仕組みを探究することは、科学者に課せられた聖なる使命と言えるだろう。
(山本泉)
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