英ファイナンシャル・タイムズ紙のチーフコメンテーターである、ギデオン・ラックマン氏が、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を推進する旨の寄稿を米ニューヨーク・タイムズ紙(20日付)に寄せた。

ラックマン氏は、米国と軍事的な協力関係にあったフィリピンが親中へ傾いていることについて、「米国の太平洋における影響力が低下している」と懸念する。

その上で、TPPは「増大する中国経済のアジア太平洋への支配力に対抗するもの」と念を押す。次期大統領候補のトランプ氏とヒラリー氏が、その意義を無視し、保護貿易の視点のみでもって、TPPに反対していることに危惧を示した。

保護貿易が打ち出され、孤立主義へと向かう世論の強いアメリカにおいて、ファイナンシャル・タイムズ紙の評論家からTPP推進論が寄せられたことは注目に値する。

寄稿内で、ラックマン氏が、アジア太平洋におけるフィリピンの次なるパートナーとして日本を挙げていることも興味深い。

安倍晋三首相がアメリカでTPP批准を訴えかける

中国の覇権主義が喫緊の課題である日本としては、何とかアメリカとTPP協定を結びたい。そのため、安倍晋三首相はアメリカに対して様々に働きかけている。

安倍首相は19日、ニューヨークで開かれた対日投資セミナーで、スピーチをした。その中で、TPPについて「アジア太平洋の国々にとって自由で公正な経済圏を広げる基盤」、かつ、「米国のアジアリバランス(再均衡)戦略の柱であり、米国がアジア太平洋地域の発展をリードする意思を示すもの」であると述べ、TPPの早期承認を求めた(首相官邸ホームページ「対日投資セミナー 安倍総理スピーチ」より)。

安倍首相は同日、次期大統領候補のクリントン氏とも会談を行い、日米同盟の強化などについて話し合った。TPPについても話し合われ、早期発効を訴える安倍首相と、TPPに反対の姿勢を示すクリントン氏で意見が分かれたとみられる。

今回のように安倍首相がTPP承認に向けて対外的に動いていることは好ましい。しかし、TPP承認を働きかけるならば、むしろトランプ氏の方に可能性があるかもしれない。

親中的な態度が目立つクリントン氏に「中国包囲網」としてのTPPを訴えかけても、好感触は望めない。

一方、トランプ氏もTPPには反対しているが、あくまで保護貿易的な観点からだ。トランプ氏は中国のアジア太平洋における覇権の増大に関しても危機感を示しており、TPPの長期的戦略を説明すれば、同意を得られる可能性も高い。

TPPで中国包囲網を

米大統領がどちらになるにせよ、日本は、アメリカと堅固な中国包囲網を築くためにも、アメリカ大統領を動かすだけの外交力を発揮するべきだ。

ギデオン氏の寄稿のように、「中国のアジア太平洋における危機」と「それに対抗するためのTPPの必要性」を日本国内とアメリカに対して説得することが求められる。(片)

【関連記事】

2016年8月号 「トランプ大統領」は怖くない 日本にとって大チャンス! - 2016.11.8 アメリカ大統領選

http://the-liberty.com/article.php?item_id=11520

2015年12月号 日本は「世界の買い手」としての役割を果たすべき - TPP交渉が大筋合意 - The Liberty Opinion 4

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10365