トルコで15日夜(日本時間16日未明)、軍の一部がクーデターを企て、正規軍と戦闘を行ったが、鎮圧された。
16日付米ニューヨーク・タイムズ紙によると、このクーデターで死者は265人に上った。このうち、クーデターに関与したのは104人で、残る161人は巻き込まれた警官や民間人だという。政府は、軍人2839人を拘束したと発表した。
今回のクーデターは、独裁色を強めるエルドアン大統領への反発とみられる。トルコ国営メディアは、軍の声明を読み上げ、反乱の動機を「現政権によって民主主義がむしばまれていたから」と分析している。
「世俗主義の擁護者」としてのトルコ軍
「建国の父」と呼ばれるケマル・アタチュルク氏が軍を率いて、1923年にトルコを建国した。ケマル氏は、イスラム教の普遍的な教えを大切にしながらも、古い風習にとらわれて政治の硬直化を招かないよう「政教分離」を掲げ、公の場から宗教色を排除する「世俗主義」を進めた。
トルコ軍は、1960年、71年、80年と過去3回、クーデターを起こした。軍は、政党政治の混乱、経済の長期低迷など、「このままでは秩序を維持できない」と判断した場合に、実力を行使する「世俗主義の擁護者」としての役割を果たしてきたと言われる。
独裁とイスラム色を強めるエルドアン政権
ところが、2002年にイスラム保守の公正発展党(AKP)政権が発足すると、首相になったエルドアン氏は、「政教分離」を修正し、それまで政権転覆を繰り返してきた軍の影響力の排除に努めた。
2014年に大統領に就任したエルドアン氏は、徐々に、独裁とイスラム色を強めている。ソーシャルメディアや公の場での政権批判を一切認めないとし、言論の自由を奪いつつある。トルコでは、すでに70人余りの記者が投獄されている。
イスラム教への信仰と世俗化で揺れるトルコ国民
今回のクーデターは、国民の支持を得られなかったが、国内で反エルドアン勢力が増えている一方で、イスラム教主義を掲げ、エルドアン氏を支持する保守層も多い。その背景には、「世俗化は、ただの西洋化ではないのか」という迷いを感じる。
トルコの政情安定は、トルコ一国のみの関心事ではない。アメリカは「イスラム国(IS)」に対抗する有志連合の一員としてトルコに協力を求めており、難民問題を抱えるEUにとってもトルコの協力は不可欠だ。
「建国の父」であるケマル氏は、政治や経済活動を縛るイスラム権力を政治から切り離すことで、国民が豊かさや幸福を追求できるようになると考えた。
イスラム教国を真に民主化するためにも、他のイスラム教国に先駆けて近代化を進めるトルコが果たす役割が大きい。トルコが民主化を進めるためには、世俗主義を超えた新たな価値を示すリーダーや、イスラム教を現代の生活になじませ、人々が豊かになるような新しい教えが必要なのではないか。
(小林真由美)
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