2016年5月号記事
イタズラ発想奮闘記
なぜ人はイタズラする時ばかり冴えるのか?
エイプリルフールも近い3月、編集者Bが、本誌編集部に数々のイタズラを仕掛けてみた。
童心に返ることで、まさか仕事の原点に返ることになるとは。
(編集部 馬場光太郎)
(注)あくまでイメージ画像です。
あれは、小学5年生の時だった。校庭脇の草原で、バッタを2匹つかまえた。透明のペンケースに入れ、観察していると、ひらめきが舞い降りた。
教室に戻り、引き出しからペンを取り出し、それぞれの羽に、赤と青の色を塗る。生まれたのは、赤いバッタと、青いバッタ。大事にペンケースにしまい、放課後、中学受験の戦場である学習塾に持ち込んだ。算数の授業中、2匹を床に放ち、こう叫んだ。
「新種だ―!」。
当然、教室は大混乱に陥った。その後、自分はどこかへ連れて行かれたが、記憶はない。
編集者Bが、ふとそんな過去を思い出したのは、面白い企画が浮かばず、行き詰まっていた時だった。
あの行動は、模範的ではなかったかもしれない。しかし、今の自分の発想力は、バッタを新種に変えた“彼"の足元にも及ばないのではないか―。
そんなことを考えている横で、上司が、元編集部員の結婚式で配る、サプライズ用の新聞を作成していた。
覗いてみると、驚いた。新郎・新婦それぞれに取材し、馴れ初めを別々の視点から、裏表で書き比べるという企画だった。
ヒントにしたというのが、先の大戦における硫黄島の戦いを、日米それぞれの立場から描いた「硫黄島からの手紙」「父親たちの星条旗」という連作映画。
コンセプト、本文、親族も楽しめる適度な甘さ加減、いずれも高いクオリティだった。
その編集を豪速で終わらせた上司は、コーヒーを飲みながらこうつぶやいた。
「なぜこんな時ばかり、クリエイティブになってしまうのか」
そう。人間はイタズラをする時、仕事の何倍も冴えてしまうことがある。
調べてみると、歴史上の"冴えた"人々は、イタズラも高度だった。ルネサンス期の巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチは、トカゲに羽をつけて、友人に「私はドラゴンを飼っている」と自慢して、驚かせたという。
ホンダの創立者・本田宗一郎は子供の頃、池の金魚にペンキで色を塗るなどのイタズラを繰り返したという。
本田氏は自著でこう語る。
「私は、通信簿の成績は決してほめられたものではなかった。けれども(中略)いたずらにかけては人後におちなかった。(中略)私は子供のいたずらも、個性の芽をのばす絶好の場だと思っている」(『やりたいことをやれ』本田宗一郎 著)
本田さん、それは大人にも言えることかもしれません。
打ち合わせ中の上司にイタズラをする編集者B。
イタズラの中に、アイデアや発想のヒントがある―。そう仮説を立てた編集者Bは、編集部にひたすらイタズラを仕掛けていく実験をすることにした。
「イノベーションを促進し、経済を活性化させる」という壮大な理由で企画を通し、さっそくとりかかった。
怒られた。
大人のイタズラは簡単ではない。まずはプロに教えを乞わなければならない。編集者Bは、ある人物を訪ねた。
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