サウジアラビアはイランとの国交を断絶した――。

イスラム教スンニ派が多数を占めるサウジが、同国で活動したイスラム教シーア派の宗教指導者を死刑に処した。それに抗議するシーア派のイラン人たちが、イランのサウジ大使館に放火したためだ。

死刑になったのは、シーア派の高位聖職者のニムル師。シーア派が多いサウジ東部で大きな影響力を持ち、シーア派による反政府デモなどを扇動した罪に問われた。

サウジはスンニ派、イランはシーア派の代表国だ。この国交断絶により、宗教対立がさらに加速し、中東地域の治安がますます悪化する可能性がある。さらに両国の関係が悪化して、両国を隔てるペルシャ湾のホルムズ海峡が封鎖されれば、石油も大きく高騰し、世界にも多大な影響を与えることになる。

宗派対立を鎮静化させるべき

この宗派対立の火を加熱させてはならない。両国は冷静になり、世界各国は事態の沈静化を促すべきだ。実際、アメリカとロシアは、サウジとイラン間の対話の仲介を行う意欲を示している。

ケリー米国務長官は、イランのザリフ外相やサウジのムハンマド副皇太子(国防相)に電話で関係修復を呼びかけ、直接対話を促した。

アメリカは長年、世界最大の産油国であるサウジと友好な関係を築いてきた。だが昨年4月、イランと欧米が核開発について合意したことをきっかけに、アメリカとサウジの関係は悪化していた。

一方のロシアも、シリアのアサド政権を支持するイランと、軍事やエネルギー分野で密接な関係にある。また、プーチン露大統領は昨年11月、サウジのサルマン国王と会談するなど、サウジとも良好な関係を築いている。

宗派対立の原因は、欧米の植民地支配とアメリカの撤退

そもそも中東地域の宗派対立の発端は、欧米の植民地支配にある。第一次大戦後、欧米は宗派を考慮せずに中東地域の国境を引いた。それが原因となって、スンニ派とシーア派の対立は激化していった。また、アメリカが「世界の警察」の役割を放棄し、中東地域から撤退していることも宗教対立を悪化させている一因だ。

植民地主義の責任を取る意味でも、欧米はロシアと協力して、中東地域の対立鎮火に努めるべきだ。また、日本もその動きに加わり、これらの国々の仲介役を担う必要がある。

そもそもスンニ派もシーア派も、アッラーを信じるイスラム教。そのイスラム教徒同士が憎しみ合い、殺し合うことは、神の御心に適っておらず、むしろ神を悲しませているだろう。

宗派を超えて、互いを理解し、愛し合えるか――。今年は、その問いに答えを出していく年になりそうだ。

(山本泉)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『正義の法』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1591

【関連記事】

2016年1月3日付本欄 サウジアラビアでシーア派指導者処刑 混沌とする中東情勢

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10722

2015年12月31日付本欄 【2016年、国際政治の展望】国際秩序の乱れは変わらず、イスラム国問題は続く

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10710