アメリカ大統領選の共和党指名候補争いで首位を走る、不動産王ドナルド・トランプ氏の「イスラム教徒のアメリカへの入国を禁止すべきだ」という発言に、党内外から批判が相次いでいる。
ホワイトハウスのローズ大統領副補佐官は、「アメリカの価値観に完全に反している」と批判。アーネスト大統領報道官も、「(トランプ氏は)大統領就任の資格を失った」と断じた。アメリカ国内のイスラム教徒の団体も会見を開き、「常軌を逸した発言だ」と非難するなど、反発の声が相次いでいる。
こうした批判に対し、トランプ氏は8日、出演した複数のテレビ番組で、「第二次世界大戦中の日系人強制収容の方がはるかに悪い」「日系人強制キャンプのようなことを話しているのではない」と述べ、過去にアメリカが日本人を排斥した事例を引き合いに出し、自身の発言を正当化した。
フロンティアを求めてアメリカに渡った日本人
トランプ氏の言う、「日系人の強制収容」とは、フランクリン・D・ルーズベルト元大統領の時代に行われた排日政策のことだ。では、移民としてアメリカに渡った日本人は、どのような扱いを受けていたのか。
日本のアメリカへの移民は、明治時代の初期に、農村の困窮などでハワイやアメリカ本土への移住を始め、1920年ごろには、アメリカ本土に12万人以上の日本人がいたといわれている。
アメリカに渡った日本人は、大部分が農業に従事し、白人の下働きなどをしていた。勤勉で粘り強く仕事をこなす日系人の中には、土地を所有し、ある程度の成功をつかむ人も増えていった。だが一方で、そうした日本人を快く思わないアメリカ人も増えていった。
日本人を排斥する運動が始まった
こうした中、1913年には、日本人の土地所有を禁ずる法律が制定された。さらに、日本人への漁業禁止令や児童の就学拒否などが始まり、商店には「日本人お断り」という張り紙が貼られるなど、露骨な嫌がらせも受けるようになった。
その後、日本からの移民を禁止する、いわゆる「排日移民法」が各州に成立していき、1924年には連邦法として、アジア諸国、特に日本人の移民を禁止する法律が制定された。こうした排斥運動によって、日本の反米意識が高まっていった。
そして1941年の真珠湾攻撃の後、フランクリン・D・ルーズベルト大統領の命令により、アメリカの日系人と、メキシコやペルーなどの中南米諸国に在住する日系人約12万人以上が、アメリカ全土に設けられた11か所の強制収容所に入れられた。これがトランプ氏の言う、「日系人の強制収容」だ。
馬小屋に収容された日本人
強制収容の際、自宅からの立ち退きを命ぜられた日本人は財産を没収され、アメリカ人たちに安く買い叩かれた。収容所の環境は劣悪で、特に、競馬場だったサンタ・アニタの強制収容所では、悪臭立ち込める馬小屋が、日系人たちの住まいとして割り当てられた。
これは、誇り高い日系人のプライドを踏みにじる屈辱的な仕打ちだった。戦後も日系人に対する排斥運動は強く、1952年まで日系人はアメリカで市民権を与えられなかった。
こうした歴史を振り返れば、イスラム教徒を排斥するトランプ氏は批判されるべきだろう。であるならば、トランプ氏を批判する人々は、過去にアメリカが国策として行った、人種差別的な日本人排斥の歴史も批判しなければならない。
そしてまた、先の大戦において、日本人を「悪魔」化して原爆を落とすなどの非人道的な行動を反省し、イスラム教徒に対しても、同じ過ちを繰り返さないようにすべきである。(真)
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