最近、米金融企業ゴールドマンサックス社から、興味深い報告書が出てきた。

それは、2008年に始まった金融危機が、「第三の波」となって途上国を襲い始めているということだ。

金融危機の「第一・第二の波」

2008年、アメリカの住宅バブルが弾け、近年まれに見る金融危機が始まった。

銀行は、貧しい人でも家を買えるようにするために、ローンを組んだ。しかし、彼らがお金を返せなくなったために、銀行自体が経営不振に陥ったのだ。銀行は、不良債権を払い下げるのに必死になり、企業や個人にお金を貸さなくなった。銀行からお金を借りることができないために、経済は停滞し、金融危機の「第一の波」がアメリカを襲ったのだ。

その後、金融危機はEUにも波及し、ヨーロッパで財政危機を引き起こした。欧米政府は、銀行が持つ不良債権を肩代わりしようとしたが、その結果、小国の財政が破綻したのだ。ギリシャや、他の南欧州各国を、「財政危機」という「第二の波」が襲った。

これらの問題に対抗するために、各国の中央銀行は金利を下げ、お金を大量に刷った。金回りを良くすることで、経済活動を活発化させたり、政府や民間が抱える借金を、中央銀行が一部肩代わりすることにしたのだ。

途上国を襲う「第三の波」

さて、中央銀行が刷ったお金の一部は、投資のリターンが比較的高い中国などの途上国や、石油や鉄鋼などの資源に投資された。

しかし、欧米(特にアメリカ)の経済が回復するのを見た中央銀行は、金利を上げるタイミングを計っている。金利が上がり、通貨が強くなれば、途上国に投資されていたお金が一斉に欧米に戻っていく。その結果、欧米の投資に頼っていた中国などを、不況が襲うことになるのだ。また、石油や他の資源の価格も下がるため、それらを輸出することでやりくりしていた途上国も危機に陥る。

問題は、途上国の経済不振が、世界に広まってしまうかどうかにある。たとえば、米ブルームバーグ紙が多数の経済学者の間で行った調査によると、「12カ月以内にアメリカで不況が起きる可能性は15%だ」という答えが出たという。

ゴールドマンサックス社によると、2008年の金融危機はまだ終わっていない。金融危機に対応するために、大量の借金やお金を世界中にばら撒き、問題を先延ばししているに過ぎないという。

根本的な問題の一つは、「投資する先が見つからない」ことなのかもしれない。中央銀行や政府が借金を肩代わりすることによって、銀行はお金を貸し出す余裕ができた。途上国は伸び代があるため、投資すれば利益も出る。しかし、途上国がつまずいたら、次はどこに投資すれば良いのだろうか。

やはり、経済を発展させるには、新しいモノやサービスを創造しなければならない。先進国や途上国を問わず、未来を創造できる企業家や実業家の輩出こそ、世界が必要としているものだ。(中)

【関連記事】

2015年10月19日付本欄 新3本の矢 そのバラマキ分を未来産業に投資してほしい

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10321

2015年10月5日付本欄 TPPが大筋合意 日本は世界経済をリードする大国の自覚を

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10270

2015年11月号記事 HSU論壇 - 経済の長期低迷を打ち破る 新たな経済学の構築 - 西 一弘

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10198