中国共産党が、中国本土で発刊禁止になっている書籍の、香港での出版の制限を強化している。17日付米ニューヨーク・タイムス紙が一面で報じた。

記事によると、香港の出版市場の7割を独占し、大きな書店を14経営するグループ企業の「聯合出版(Sino United)」には、中国共産党の息がかかっており、中国本土で発禁処分を受けた書籍の陳列を控えるようになった。また、中国本土からの観光客が香港で「禁書」を買って持ち帰ることは禁じられているため、禁書を扱う香港の書店の経営は傾いている。特に、本土で禁書となった政治関連の本を数多く取り扱う香港の「新世紀出版社(New Century Press)」は、前述の聯合出版に対して売る本の数が9割少なくなり、赤字に苦しんでいる。

これまで香港の書店では、中国本土では手に入らない禁書が堂々と販売されていた。それゆえ、香港を訪れる中国本土観光客にとって、香港で手に入れた禁書などは人気の土産だった。

習近平を真正面から批判する問題作『中国教父・習近平』

こうした禁書の中で代表的なのが、習政権を真正面から批判した問題作『中国教父・習近平』だ。著者の余傑(よ・けつ)氏は、2012年に米国へ亡命した反体制派。獄中のノーベル平和賞受賞者・劉暁波(りゅう・ぎょうは)氏の友人でもあり、学生時代から反体制運動をしていた。中国政府が反体制派知識人や人権活動家の取り締まりを強化した時には、当局から過酷な拷問を受けた人物だ。

この『中国教父・習近平』は2014年3月に香港の出版社で発売されてベストセラーとなったものの、すぐに中国本土での販売は禁止され、香港からの持ち込みも厳しく禁じられた。出版しようとした香港の出版社社長は中国で逮捕され、密輸罪で懲役10年の判決を受けた。今でも、中国政府が最も警戒する本の一つだ。

内容を紹介すると、中国共産党は中国最大のマフィアであり、トップの習近平は中国のゴッド・ファーザーのような存在だとする。共産党が提唱する「中国の夢」とは、すなわち「習近平の野望」であり、彼が政権の座に就いて以来、急速にファシズム化している。さらに同書は、今中国で広がりつつある「習近平主義」をナチズムに例え、習氏は、ヒトラーをはじめとする独裁者らと同じ末路を辿ることになるという予言で締めくくっている。

そもそも香港は、1997年に中国に返還される際、一国二制度をとるとして、50年間の自治を約束された。香港の憲法には、香港において中国本土の様な社会主義制度は適用されないと明記されている。

こうした約束などお構いなしに、香港の人々の自由を奪い、「本土化」しようとする中国共産党の動きを看過することはできない。また、共産党がどれほど国民の知る権利や自由を制限しても、人々の政治への関心や、自由を求める心、改革への情熱を奪うことはできない。(真)

【関連動画】

ネット・オピニオン番組「THE FACT(ザ・ファクト)」は、「中国の国民弾圧~習近平批判本の著者が経験した壮絶体験」と題し、本欄で紹介した余傑氏のインタビューを紹介している。

http://thefact.jp/2015/394/

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