2013年10月号記事

シリーズ 富、無限 第5回

当時、金持ちの贅沢品だった自動車を、安く大量につくり、誰もが車を持てる社会を築いた自動車王ヘンリー・フォード1世。車社会の到来によって、人やモノの移動は革命的な進歩を遂げ、文明が新たなステージに移行した。不可能を可能にし、人々の幸福の実現のために生きたフォードの熱き人生に迫る。

(編集部 山下格史)

ヘンリー・フォードに学ぶ異常性のある熱意

車の普及を通じた社会変革への使命感

ヘンリー・フォード1世

(1863~1947)

アメリカの自動車王。世界で初めてベルトコンベアによる大量生産方式を確立するなど、当時、高価な乗り物だった車を普及させた。T型車は1500万台を売り上げた。1903年に創業したフォード・モーター社は、米自動車メーカー、ビックスリーの1つ。

「大きな事業とは財力ではなく、奉仕の力の大きさで決まる」 (『ヘンリー・フォードの軌跡』)

アメリカの自動車王ヘンリー・フォード1世(1863~1947年)の自伝には、「奉仕」という言葉が多く使われる。この言葉には、穏やかでへりくだった響きがあるが、 彼の生涯はその奉仕の度合いが尋常ではなく、"異常"と言えるほどの熱意にあふれている。

日本では明治維新前夜の頃、フォードは米ミシガン州の田舎町ディアボーンで農家の長男として生まれた。だが農場の手作業中心の過酷な労働を嫌い、「もっと効率よく成果を上げる方法はないか」という思いが機械類への強い関心となり、10代から自動車エンジンの開発に取り組むようになった。

その後、会社を設立したフォードは、大量生産方式を確立し、生産時間を短縮。 それまで金持ちの贅沢品だった自動車を安く販売して多くの庶民が車を持つという、当時、誰も想像できなかったアイデアを実現させてしまった。 最盛期には、全米の自動車の半分をフォード社製が占めた。

だがフォードの業績は、単に自動車を普及させたという点にとどまらない。 車社会を到来させたことによって、それまで徒歩か馬車で移動していた人々の生活そのものを一変させ、都市を生み、また、鉄鋼業や発電のほか、輸送のための鉄道や船など自動車製造にかかわる諸産業を発展させた。

文明を新たなステージに移行させたフォードの「異常性のある熱意」を、いくつかの業績に分けて見ていきたい。