2012年の世界的選挙イヤーの口火を切る台湾総統選が14日に行われ、現職の馬英九・国民党主席が再選を果たした。今回、現地に入って取材を行った、その一部を台湾からレポートする。

選挙は、馬氏と蔡英文・民進党主席の事実上の一騎打ち。投票から一夜明けた15日、台湾の主要メディアは次のように伝えている。

「蔡氏は『独立』を主張したために勝てなかった。馬氏が主張したように、両岸(台湾と中国)の平和的な安定が必要だ」(中国時報)。「馬氏の『中国との関係を深めることで、台湾の経済は良くなるし、格差も縮まる』という主張が、有権者の支持を得た」(聯合報)。これは台湾の三大紙のうち、国民党寄りの二紙の社説だ。

残りの1つ、民進党寄りの「自由時報」はこう報じている。「これから国家主権の流失が進むだろう。さまざまな形で中国の支援を受けて、再選した馬氏は、中国に"お礼"をしなければならない。(経済の分野だけでなく)中国の政治的な圧力はますます強まるだろう」。

弊誌の認識は、自由時報の社説に近いが、今回、台湾で取材をして不思議に感じたことがある。それは、台湾の政治家、マスコミ、国民党支持者も民進党支持者からも、中国の軍事的な脅威に対する危機感が伝わってこないということだ。

たとえば、蔡氏に投票したタクシー運転手の男性は、「馬は、中国とつながる大企業ばかり応援して、国内産業のことを何も考えていない」と憤るが、中国の軍事的な脅威について聞くと、「中国人が同じ民族の台湾人を苦しめるはずがない。日本人こそ気をつけたほうがいい」と笑った。つまり、中国問題を単なる経済問題と捉えているのだ。これは、日本の2009年の衆院選と似た状況かもしれない。

独立志向の強い民進党の政治家は、中国の軍事的な脅威について、意図的に争点化することを避けているのかもしれない。しかし、太平洋進出を目論む中国が、沖縄はもちろん、台湾を狙っているのは明らかだ。

馬氏の再選で、台湾の人々は「これで台湾が安定する」と喜ぶが、それは、中国が望む"安定"であることに気づくべきだろう。(格)

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