仕事や人間関係に疲れた時、気分転換になるのが映画です。

映画を選ぶ際に、動員数、人気ランキング、コメンテーターが評価する「芸術性」など、様々な基準があります。

アメリカでは、精神医学の立場から見て「沈んだ心を浮かせる薬」になる映画を選ぶカルチャーがあります。一方、いくら「名作」と評価されても、精神医学的に「心を沈ませる毒」になる映画も存在します。

本連載では、国内外で数多くの治療実績・研究実績を誇る精神科医・千田要一氏に、悩みに応じて、心を浮かせる力を持つ名作映画を処方していただきます。

世の中に、人の心を豊かにする映画が増えることを祈って、お贈りします。

今回は、自由を守るために命をかける人たちについて。

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(1)「セヴン・イヤーズ・イン・チベット」(★★★★☆)

まずご紹介するのが、「セヴン・イヤーズ・イン・チベット」(1997年、アメリカ映画、136分)。中国属国化前のチベットを舞台に、オーストリアの登山家ハインリヒ・ハラーと若き日のダライ・ラマ14世との交流を描いた自伝的映画です。

オーストリアがナチス統治下にあった1939年当時、国際的に有名な登山家ハラー(ブラッド・ピット)は同僚のペーター・アウフシュナイター(デイヴィッド・シューリス)と共に、ヒマラヤ山脈の最高峰、ナンガ・パルバットを目指して旅立ちます。

しかし、登山チームは思わぬ雪崩によって登頂を断念。追い討ちをかけられるように、第二次世界大戦の影響で、下山途中の彼らはイギリス植民地のインドでイギリス軍に捕らえられ、捕虜収容所に送られてしまいます。

収容所生活も2年を超えた1942年。ついにハラーはアウフシュナイターと逃亡します。2年もの長い逃亡生活を続けた1945年、2人は外国人にとって禁断の地であるチベットのラサに辿り着いたのです。

このシーンで映される、黄金色に輝くポタラ宮殿と、「世界の屋根」と謳われるヒマラヤ山脈の壮大な眺めは圧巻です!

ハラーは、なんとそこで若き宗教指導者ダライ・ラマ14世(ジャムヤン・ジャムツォ・ワンジュク)の家庭教師を依頼されたのでした。

西洋文明に興味を示すダライ・ラマ14世に、ハラーは英語や地理などを教えながら、魂の交流を重ねていきます。そして、利己主義だったハラーは初めて無我の境地を体験し、心境の変化が訪れます。

しかし、中国の侵略によって多くのチベット人の命が無残に奪われ、1951年、ハラーはチベット滞在に終止符を打ったのでした。

本作では、「心の自由」と「国家を護る軍事力」の両立について深く考えさせられます。また、チベットに突然やって来た中国全権大使の傲慢な態度を見ると、現在の中国の香港や台湾に対する不遜な態度と重なるようです。

中国共産党は現在、世界一の軍事大国を目指して猛進中ですが、日本もチベットの二の舞になるべきではないと強く感じます。

ポジティブ心理学の先行研究では、1988~1999年について28カ国の国際比較を行った結果(ブルーノ・フライ著『幸福度をはかる経済学』)、民主主義制度が充実している国の方が、国民の幸福度が高いことが明らかになっています。

逆に、最も幸福度の低い国民がいる国は、旧共産主義国のハンガリー、ロシア、ラトビア、スロバキア、スロベニアなどであったことから、全体主義的独裁国家より、民主主義的国家の方が国民の幸福度を上げることが示唆されています。

自由を護ることが、人間の幸福に直結しているのだと分かります。

(2)「リンカーン」(★★★★★)

次にご紹介するのが、アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンの人生を描いた伝記映画、「リンカーン」(2012年、アメリカ映画、150分)です。

リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)は、貧しい家に生まれ、学校にもろくに通えない中、苦学を重ねてアメリカ大統領になります。

彼の大統領当選を受けて、奴隷制存続を訴える南部の複数の州が合衆国から離脱し、アメリカは分裂。南北戦争へと発展していきます。当時アメリカ南部ではまだ奴隷制が認められており、リンカーンはこれに反対していたのです。

「法の下の平等」という国家の理想実現のために戦火が広がり、若い命が散っていくことにリンカーンは苦悩しますが、妥協することなく議会を導いていきます。そして、アメリカの分裂を防ぎ、「真の平和」を実現していくのでした。

本作を観ると「真のリーダーとはどういったものか?」をまざまざと実感することができます。現代日本では、「平和と水はタダ」と考える傾向がありますが、それは"世界の非常識"です。

日本も現在、独裁覇権国家である北朝鮮や中国から軍事的プレッシャーをかけられている状態ですが、安易な「話し合い」で一時的な妥協をはかるよりも、毅然とした態度をとって両国の民主化を進めるべきです。

日本の政治家たちも、ぜひ本作を観て、リンカーンの気概に学んで欲しいものです。

(3)「1911」(★★★★☆)

最後にご紹介する映画は、「1911」(2011年、中国・香港合作映画、123分)で、辛亥革命が1911年に起きてから、ちょうど100年目の2011年に公開された歴史大作映画です。

時は、中国の清朝末期。ホノルル留学中に近代思想を学んだ孫文(ウィンストン・チャオ)は、衰退する祖国の現状を憂い、革命を画策します。しかし、武装蜂起に失敗し、日本に亡命。そこで義に厚く実直な黄興(ジャッキー・チェン)や張振武(ジェイシー・チェン)と出会い、同志の絆を結ぶことに。

1908年に溥儀(ふぎ)が宣統帝として即位すると、1911年に張振武らの指導によって武昌で武装蜂起が発生。やがて各地に飛び火し、全土規模の辛亥革命へと発展してゆきます。

黄興は、アメリカから帰国した孫文に合流し、援軍として奮闘、軍司令官として孫文を支えていきます。しかし、清朝の総督府の占拠に失敗すると、大勢の部下を失った上に黄興自身も負傷。悲しみに打ちのめされますが、献身的に彼を看病する女性・徐宗漢(リー・ビンビン)や同志たちの勇気ある行動に励まされ、再び立ち上がり、「自由」と「民主主義」のために戦っていくのでした。

祖国・中国の「自由」と「民主主義」のために戦った辛亥革命の志士たちが、共産党による一党独裁が続く中国の現状を見たら、どのように思うでしょうか。

中国経済はバブル崩壊を迎えんとしており、景気悪化に国民のフラストレーションが溜まっています。そうした中、中国共産党政府は「一帯一路政策」という軍民一体となった侵略的貿易政策に活路を見いだそうとしています。しかし、果たしてそれは世界を自由と平和に導く道なのでしょうか。

中国の一党独裁体制が平和裏に民主化され、国民の幸福を第一に考える国家になってほしいものです。

他には、以下のような映画がオススメです。

「ホテル・ルワンダ」(★★★★☆)

1994年のルワンダ紛争で、難民1200人以上を自分のホテルにかくまって、虐殺から守ったホテル支配人、ポール・ルセサバギナの実話映画です。アフリカ版の「シンドラーのリスト」だと言えます。

「図書館戦争」(★★★☆☆)

国家による情報統制が正当化されている近未来日本で、本を読む自由を守る自衛組織を描いたSFアクション映画。本作では、情報統制している国家が「日本」ということになっていますが、情報統制で問題になっているのは、実は「中国共産党」です。中国では毎年20万件以上の暴動が多発しているといわれていますが、「自由」のために、中国国民は共産党政府と戦っているのです。

「県庁おもてなし課」(★★★★☆)

高知県庁が、実際に設立した「おもてなし課」を舞台に、役所気質と民間感覚のズレを痛烈に批判した社会エンタメ映画です。一般に、後進国ではお役所の力が強く、先進国では民間の力が強いと言われていますが、本作を観ると、今後ますます民間の力が必要になってくると痛感します。日本も「小さな政府」を目指し、民間活力を生かした「自由な社会」へと進んでいくことが大切です!

幸福感の強い人弱い人

幸福感の強い人弱い人

千田要一著

幸福の科学出版

精神科医

千田 要一

(ちだ・よういち)1972年、岩手県出身。医学博士。精神科医、心療内科医。医療法人千手会・ハッピースマイルクリニック理事長。九州大学大学院修了後、ロンドン大学研究員を経て現職。欧米の研究機関と共同研究を進め、臨床現場で多くの治癒実績を挙げる。アメリカ心身医学会学術賞、日本心身医学会池見賞など学会受賞多数。国内外での学術論文と著書は100編を超える。著書に『幸福感の強い人、弱い人』(幸福の科学出版)、『ポジティブ三世療法』(パレード)など多数。

【関連サイト】

ハッピースマイルクリニック公式サイト

http://hs-cl.com/

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【関連書籍】

『人間幸福学のすすめ』

『人間幸福学のすすめ』

第4章 人間幸福学から導かれる心理学千田要一著 HSU人間幸福学部 編 HSU出版会

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