《本記事のポイント》

  • 香港の「民主化」デモに、さらなる強硬姿勢を見せる中国
  • 台湾を「覚醒」させた習近平の焦り
  • 民主主義の意義を理解せぬ中国

「中国政府 対 香港・台湾」の意志の相違が、いよいよ先鋭化してきている。

2019年11月24日、香港では区議会議員選挙が行われ、「民主派」が地滑り的に勝利した。しかし中国政府が、妥協する気配はない。

中国政府は2020年の年初、中央人民政府駐香港特別行政区連絡弁公室(以下、中連弁)の王志民主任を事実上、更迭した。王氏は2017年から、中連弁のトップを務めていたが、デモの制圧に至っていない。その責任を取らされたのである。

後任になったのが、駱恵寧(前山西省党委員会書記)だ。同氏は、王前主任よりも「強硬派」と言われる。

駱主任は着任直後の1月9日、林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官と会い、「香港の暴力・混乱阻止、及び秩序回復」を確認した。今後は、2人で協力して香港の民主化デモを鎮圧して行くのではないか。

目下、香港では、警察によって「自殺させられる」デモ参加者が多数出現している。ある調査では、昨年6月12日から今年1月1日までに、香港で発生した自殺数は416件。その中で"飛び降り"が全体の261件で1番多い。その次は、"溺死"で39件にのぼる。

中国政府は、香港の「民主化」を何が何でも阻止するつもりだろう。

台湾を「覚醒」させた習近平の焦り

一方、1月11日、台湾では総統選挙と立法委員選挙が行われた。既報の通り、香港「民主化」デモの影響を受けて、中国と距離を取る民進党の蔡英文総統が、中国共産党に近い野党・国民党の韓国瑜候補を大差で破って再選されている。

同選挙では、立法委員選挙における、与党・民進党の過半数割れが危惧されていた。しかし、民進党は単独過半数を獲得し、行政府と立法府の"ねじれ現象"を回避できた。かつて陳水扁総統(当時)は、立法院では少数与党で、政権運営が困難を極めた。その時代に逆戻りせずに済んだのである。

ある意味、"完敗"した中国政府だが、選挙の翌12日、耿爽(こう・そう)中国外務省副報道局長は、蔡総統再選に日米英が祝意示したことに関して、「『一つの中国』原則に反するやり方で、強烈な不満と断固とした反対を表明する」とコメントを出した。

習近平政権は、焦って香港をできるだけ早く「1国2制度」から「1国1制度」に変えようとした。これが間違いだったのである。

香港の状況を見ている台湾人が、「1国2制度」を受け容れるはずはないだろう。

民主主義の意義を理解せぬ中国

1番の問題は、中国共産党が民主主義の意義をまったく理解していない点だ。

もちろん民主主義には様々な欠陥があるが、人類の歴史の中では"比較的まともな政体"だと思われる。

しかし近代中国は、列強から「半植民地化」されても、民主主義を学ぶチャンスがなかった。これが彼らにとって"不幸"だったのである。

中国は現代においても、ほとんど民主主義とは無縁だった。1974年以降、世界的な民主化の高まり(「第三の波」)の中、唯一、1970年代末から80年代にかけて、中国でも民主化運動が起きたが、89年の「天安門事件」で同国の民主化は完全に挫折した。

また、今の中国共産党は、いったん権力を掌握した以上、その権力を絶対、他者に渡さないだろう。同党の"黒歴史"が暴露され、厳しい責任追及を逃れられないからである。

結局、中国共産党幹部は、いまだに「"孫子"の世界」に住んでいるのではないか。そのため、彼らは、国内外は権謀術数と疑心暗鬼にまみれた世界でしかないと考える。

その中で、どう生き残るかが、彼らにとって最重要関心事なのだろう。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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