《本記事のポイント》

  • イラン民主活動家をまとめる元国王の子息がアメリカで講演
  • イランを全体主義的な体制と位置づけ、イラン国民への支持を訴える
  • 現政権は変革を急がなければ、アメリカの戦略が実現する

イランではデモが続いている。昨年11月、イラン政府が予告なしにガソリンの値上げをしたことを契機に起きた反政府デモや、ウクライナ旅客機が撃ち落とされた反政府デモである。

一方、ソレイマニ司令官の殺害を機に起きた追悼式に集まった人々は百万人を超えると見られ、政府寄りの国民と反政府側のデモに参加する人々の間に横たわる溝は深い。

イランに詳しい関係者によると、政府寄りの国民と反政府的な国民との間で、内戦が起きてもおかしくない状況にあるという。

そのような状況で、イランでは2月21日に国会議員選挙を控えている。イラン政府は現職議員290人のうち、社会や経済の開放を訴える穏健派に属する90人の出馬を認めないと発表した。

国会議員の3分の1にあたる議員の出馬を阻止して、イラン国内の民衆の矛先が政権に向かうことを阻止しようという狙いなのかもしれない。しかしそれはイラン国民の自由で活発な言論を封殺し民主的体制に逆行する決断で、さらなる反発を招きかねない。

そのような中、米シンクタンクのハドソン研究所で、パフラヴィー朝イランの第2代にして最後の皇帝となったパーレビ国王の子息レザー・パフラヴィー氏が講演を行った。パフラヴィー氏は、もし現政権が崩壊した場合、反体制派がリーダーと仰ぐ人物である。講演の概要は以下の通りだ。

(1) イラン政府の罪状

  • 1979年のイラン革命後、民族や宗教を理由として、多くの人が投獄された。同じ年にイランではアメリカ人外交官や海兵隊員52人を人質に取り、444日間拘束した。

  • 1983年のレバノンの首都ベイルートに米海兵隊が派遣された際は、アメリカ海兵隊の宿舎が自爆テロで狙われ、241人が死亡した。

  • 1988年には、イランでは数千人の若者たちが、左翼的思想にかぶれているとされ、ホメイニ師の命令で処刑された。

  • 1994年には、当局はブエノスアイレスのユダヤ人のセンターで85人を殺害。

  • 2009年にも、反体制運動である「グリーン・ムーブメント」で、治安部隊は多くの国民を殺害した。

  • イランの革命防衛隊のコッズ部隊は、国民を弾圧したシリアのアサド政権を支持してきた。

  • 昨年11月のデモで当局の治安部隊は、1500人のデモ参加者を殺害し7000人を拘束している。

  • 40年間、西側などの諸外国は貿易等と外交でイランに関与し、イランの行動を変えようとしてきたが、すべてが失敗。イランは普通の国家ではなく、今後も変革できないと見るべきである。

  • この政権がある限り、緊張が緩和される見込みはない。私の同胞のイラン人にとっては、イランの現政権は、イラン人を抑圧する占領勢力でしかない。

  • アメリカにとっても、現政権は中東における平和と安定と繁栄に対する唯一最大の脅威だと理解すべきである。

  • 私の同胞たちは何年も、命を懸けてこの政権と戦ってきた。アメリカが無条件で対話をすれば、支援を必要とするイラン国民を無視することになる。

  • 全体主義的政権を転覆させるには、国際社会のサポートが必要である。

  • 今後は、イランの主権が存在する「国民」とどうかかわっていくのかという議論が非常に重要だと考える。

  • 現政権は、最大限の制裁を受けるに価する。同時に、イラン国民は最大限の支援を受けるに価する。

(2) 軍部を含め、政権から人々の気持ちは離れ始めた

質疑応答では、次の点に触れた。

  • イランの人々がソレイマニ司令官の葬儀に反対していることや、ソレイマニ氏の肖像画を燃やして抗議をする人は報道されないなど、イランに関する報道は十分ではない。

  • 私は、イランの革命防衛隊の人たちが、国会議員とともに、非暴力の市民的不服従運動に参加し、現政権と距離を置けるよう導いてきた。こうしたことが功を奏し、人々はこの40年で初めて、革命の兆しを感じている。2020年は、革命政権の「終わりの始まり」がスタートした年と見るべきである。

  • イランの国民にとって、トンネルの終わりに光があると信じられることが必要で、彼らにはレトリックを超えたサポートが提供されなければならない。

  • 体制転換について議論されることが多いが、この40年間置き去りにされてきたのは、イラン国民の心情である。エスカレーションを避けるには、現政権に頼るのではなく、イラン国民との対話が必要だ。

  • 武器を置き、通りに出て国民のデモに参加すべきだという軍部の人々は増えてきている。

  • 「イラク戦争で失敗した」と考え、孤立主義的政策から、イランに介入すべきではないと考えるアメリカ人がいることは知っている。だがイラクやアフガニスタンと違い、イランでは国民の大多数が民主化を求めている。これは「自由」「人権」の問題であるため、党派的な問題にすべきではないと考える。

  • 亡命政府の創設は、現実的な案ではない。憲法制定に向けて、憲法制定会議を立ち上げることが必要だが、そのメンバーはイランにおける選挙で選出されるべきだ。

イラン・イスラーム革命とは何だったのか

1979年のイラン・イスラーム革命で、アメリカの傀儡政権であったパフラヴィー王朝が転覆した。「反国王」「宗教の復活」「反イスラエル」を掲げ、宗教立国を実現しようとしたのが別名ホメイニ革命と呼ばれるイラン革命だった。

ホメイニ師は、パフラヴィー王朝の政教分離政策で脱イスラム化を目指す欧化政策は、国民の価値観を揺るがすものと考え、イスラムを根底に据えた「美徳ある社会」の実現を目指した。それはプラトンが描いた哲人王ならぬ最高指導者が導くユートピア国家だった。

アメリカではなく中国の傀儡になったイラン

しかし、イランの事情に詳しい関係者によると、この40年で革命の当初に目指していた格差是正も、繁栄する社会も実現できなかっただけでなく、イスラム教もより原理主義的な解釈が行われるようになったという。そうした解釈を行うイスラム法学者を、政権は資金的に支援している実態があるという。

シーア派のイランでは教義上、コーランを柔軟に解釈し、現代に順応することが可能ではあるが、復古主義的な運用が行われ、国民を苦しめていると言える。

また40年前のパフラヴィー朝は、冷戦時代にイランがソ連の支配下に入るのを恐れたアメリカがつくった傀儡政権であったが、現在の政権は中国の傀儡政権となり、ウイグルで同胞のイスラム教徒が苦しんでいても、見て見ぬふりを決め込んでいるという。

国家経営の失敗、不寛容な宗教解釈によって、国民から自由が奪われ、本来の理想とした国家建設に失敗。さらに全体主義国家・中国にイランがのみ込まれつつある様子も伺える。

イランは国内の変革を急げ

女性のサッカーの観戦が許されるようになるなど、漸次的に改革は進むが、亡命者もあとを絶たない。自由を抑圧すれば、国民の心はさらに政府から離れてしまう。大川隆法・幸福の科学総裁により、死の翌日、1月4日に収録されたソレイマニ司令官の霊言では、アメリカは国民とイラン政府とを分断させる戦略をとると指摘していたが、イラン国民の心はすでに政府から離れつつある。

宗教を国の支柱に据えた宗教国家の理想は、それ自体は良かったとしても、理想通りに実現しなかった部分については、国民の声に耳を傾けて修正を重ねるのが民主主義である。

外圧による本格的なイスラム改革を迫られる前に、イランは国の軌道修正を迫られていると言えそうだ。

(長華子)

【関連書籍】

『アメリカには見えない イランの本心』

『アメリカには見えない イランの本心』

大川隆法著 幸福の科学出版

『イエス ヤイドロン トス神の霊言』

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