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《本記事のポイント》

  • 中国スパイが「スパイ活動に嫌気」でオーストラリアに亡命
  • 香港・銅羅湾書店誘拐事件も王の仕業!?
  • 台湾の選挙にもサイバー攻撃・メディア懐柔

米ワシントン・ポスト紙(11月26日付)によれば、ここ1週間ほどで、習近平主席は3つの悪いニュースに接したという。

1つ目が、11月16日付米ニューヨーク・タイムズ紙で、新疆ウイグル自治区の収容所(再教育キャンプ)に関する詳細なレポートが報じたられたことだ。

2つ目が、23日付豪シドニー・モーニング・ヘラルド紙で、中国のスパイだったと自称する王立強(William Wang)が、香港と台湾、豪州で行っていた諜報活動を暴露し、オーストラリアへの亡命を希望したことだ。

3つ目が、24日に香港で行われた区議会選挙で、「民主派」が8割を超える議席を獲得し「親中派」を撃破したことだ。

ここでは、2つ目の「王立強亡命事件」について取り上げたい。

「スパイ活動に嫌気」

中国の元スパイを自称する王立強(福建省出身の26歳、名前は仮名だという)が10月、オーストラリアに亡命した。

王は、5月頃から豪州保安情報機構(Australian Security Intelligence Organization; 略称ASIO)に中国関連の機密情報を流している。

王は、スパイ活動に嫌気が差したので、オーストラリアへ亡命したという。

この人物が、本当に豪州への亡命を求めたのか、それとも「二重スパイ」となるため、わざと同国へ亡命したのかはまだ確定していない。『孫子』を読めばわかるように「二重スパイ」とは相手の懐に飛び込み、さも味方の振りをして敵を欺く、中国の古典的手法である。その疑いが残る限り、豪州や台湾は、王の情報を慎重に精査しなければならないだろう。

香港・銅羅湾書店誘拐事件も王の仕業!?

王立強が語った主な"業績"は、2015年12月、香港において、銅羅湾書店の株主、李波を誘拐し、中国大陸に連れ去ったことだという。

銅羅湾書店は、自社で製本し発行を行う。同書店は『習近平とその6人の愛人達』(その中の1人が、1989年の「民主化運動」の指導者、柴玲だと言われる)という本を発行予定だった。習近平政権は、このことを知って、同書店全員を拉致・連行するよう命じたのである。

他にも王は、香港おいて次のようなスパイ活動を行っていたという。

まず、中国の学生に奨学金や旅行代、教育基金等を出し、香港に招く。そして、彼らに偽の「香港独立」組織をつくらせ、若い香港人を勧誘して加入させる。そして、加入したメンバーが、どのような人物なのか、また、家族関係はどうなっているのか等を探らせた。王は、香港関連で中国共産党から毎年5000万元(約7億7800万円)の工作費が出たと語っている。

台湾の選挙にもサイバー攻撃・メディア懐柔

王は、台湾での工作にも携わっていたという。2018年、民進党に20万回のサイバー攻撃を仕掛けた。

また、来年1月の台湾総統選挙に向け、国民党の総統候補・韓国瑜を支持するよう、台湾メディアに対し、選挙資金15億人民元(約233.6億円)を配った、と王は証言している。

この発言の真偽についても、様々な観測がある。

韓国瑜は王の発言について、自分を落選させるための策略だと主張する。中国共産党も、民進党が「王立強亡命事件」を次期総統選挙に利用していると非難した。

しかし現時点で、すでに蔡英文総統の再選は濃厚である。今のままで、じっとしていれば、ほぼ確実に勝利できる。民進党自ら、何かを仕掛ける必要はないだろう。おそらく中国共産党の民進党批判は、単なる言いがかりに過ぎないのではないか。

なお王は、台湾工作に関して、中国創新投資理事会主席兼行政総裁の妻であるキョウ青(キョウ=龍の下に青)と関係の深い女性を、直接、使って操作していたという。

王がそのことを暴露した後、台湾法務部(省)調査局は、桃園国際空港から出国しようとしていた向心・キョウ青夫妻を逮捕している。

今後、法務部(省)が夫妻を調べれば、王立強の素性を含めた真実が明らかになるに違いない。

いずれにせよ、中国の何かが決壊し始めている。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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