米中間の貿易交渉が行き詰まりを迎える中、アメリカは関税引き上げ以外の手段に訴えることにおいても手を緩めていない。

「輸出管理」という事実上の禁輸措置に訴え、中国にアメリカの技術が流出しないように「出口」を取り締まって規制を強化している。

監視カメラメーカー ハイクビジョンとダーファを排除

ファーウェイに続き輸出規制の対象となる可能性があるのが、監視カメラを手掛ける杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)と浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)だ。新疆ウイグル自治区の弾圧に加担している企業であることから、米商務省は、両社を含む数社を禁輸措置対象リストに加えることを検討中と報じた(22日付米ブルームバーグ通信)。

この2社だけで、世界の監視カメラ市場のシェアの4割を超える。ハイクビジョンは3万台の監視カメラを受注し、昨年だけで売り上げを30%伸ばした急成長企業だ。

国際市場調査会社IDCが1月30日に発表した報告書によると、中国国内の当局による監視カメラの設置台数は2022年に27.6億台に達する見込みだという。つまり全人口14億人の約2倍のカメラを設置し治安維持を強化する。中国当局は向こう数年間でカメラの追跡と識別能力の技術的向上に300億ドル(約3.3兆円)を投じ、「国民への監視」を一層強める見込みだ。

中国は2020年から全14億の国民を点数に応じて処遇する「社会信用システム」をスタートできるよう準備を進めている。その「社会信用システム」は監視カメラの急増によって、さらなる"進化"を遂げるということだろう。

ドローンメーカーDJIの排除

監視の手段はカメラだけではない。米国土安全保障省が中国製ドローンについて、「情報漏出の危険がある」と警告したことを、米CNNが報じている。

名指しは避けているものの、米国で圧倒的なシェアを誇る、最大手ドローンメーカーである中国のDJIがターゲットとなると予測されている。

現在のところ、アメリカにおいても規制がないため、軍事施設や中国がターゲットと定める人物の自宅や勤務先の上空を中国製のドローンは飛び放題。ドローンに搭載されたカメラでターゲットを盗撮し、その情報を人工知能(AI)で分析すれば機密情報を処理できる。

この問題を放置すれば、最終的には国民全員を監視下に置ける。要するに、中国がアメリカや日本などを敵と定めたら、その国民すべてを監視下におく目論見が進行していると見たほうがよいだろう。

このように、ドローンについても今年のアメリカの国防権限法で排除が検討されているという。

あなたの顔が撮られ中国に情報が収集されている

監視カメラにしても、ドローンにしても、問題となっているのは「カメラ」だ。「カメラ」に「顔」を撮られ、「人工知能(AI)」で「顔認証」の技術を向上できれば、統治者にとって不都合な人間を徹底的に排除できる。

AIの顔認証の識別能力を向上させるには、大規模なデータが必要だ。中国は2017年の時点で個人を特定できる顔認証データベースを構築したが、その精度は90%だという。

中国政府は、AI認証の精度を向上させるために、諸外国も巻き込んでいる。その一つがアフリカのジンバブエ政府だ。アメリカ合衆国に本部を置く国際NGO団体のフリーダム・ハウスが昨年発表したレポートによると、ジンバブエ政府は昨年、中国のベンチャー企業クラウドウォーク・テクノロジーと、全国的な顔認証システムを構築する契約を結んだ。

この契約を受け、肌の黒い人々を識別するための生体データは、ジンバブエから中国に送られることになっているという。このような政府と中国企業との間で行われた契約を市民は知らされていない。

AIの顔認証技術の精度を向上させるために、国民まるごと中国の実験材料として利用されるケースが出てきたことを意味する。

中国が世界に技術の輸出で専制的支配を拡大している図。Freedom Houseのレポート「Freedom on the Net」より。

中国の弾圧に加担する西側企業と金融市場

さらに問題なのは、西側の協力だ。これについては2つの側面に分けられる。グーグルのような私企業が中国と協力をする場合。もう一つは、こういった国民の監視を行う企業が西側で資金調達ができるという問題である。

例えば、アメリカであればロッキード・マーティン社やレイセオン社、日本であれば三菱重工などの軍事メーカーが、中国で軍用機やミサイルの共同研究開発をすることはない。

だが、AIも軍事戦略上、重要な先端技術であるにもかかわらず、敵の陣営で事業を展開している。

その典型的な例がグーグル社である。グーグルは、北京に人工知能(AI)センターを開発し、中国でAIの研究開発を進めている。

こうしたグーグルの動きに対し、米軍トップのダンフォード統合参謀本部議長は、中国共産党独裁政権を助ける行為だと非難している。

さらに資金調達面にも問題がある。アメリカの大半のファンド・マネージャーは、新疆ウイグル自治区の監視カメラでウイグル民族の弾圧に加担した中国国有企業「ハイクビジョン」の株式は「買い」だと推奨してきた。

しかも米民間企業従業員向けの確定拠出年金制度401(k)を含めた世界的な投資ポートフォリオに欠かせない銘柄となっている。要するに、老後の虎の子となる年金のポートフォリオには、人権弾圧を行う中国企業が組み込まれているのだ。

危機管理コンサルティングの米RWRアドバイザリー・グループを率いるロジャー・ロビンソン氏はこの問題について、アメリカで今年に入って設立された「いまそこにある危機:中国に関する委員会」でこう指摘した。

「ナスダックやNY株式市場やインデックスファンドなどに、中国の企業650社以上が上場したり、組み込まれたりしていますが、その多くが安全保障面でも人権の面でも問題のある中国の企業です。それにもかかわらず、そのことを知らないアメリカ人は、うっかりと何千億ドルも投資してしまっているのです」

要するに、意図的かどうかは別として、西側諸国は、技術的にも資金的にも、中国の「独裁」と国民の「抑圧」に加担してきていることになる。

官民全体で規制の強化を検討すべき

アメリカの40人を超える超党派の議員は4月初旬、ハイクビジョンやダーファテクノロジーに対する米企業の輸出規制を強化したり、世界の金融市場での活動を調査したりして、米企業が新疆ウイグル自治区の市民の監視に加担しないよう政府に求めた。ハイクビジョンの製品にはアメリカの部品が使われているため、輸出規制は有効だからだ。

日本では、「ドローン飛行禁止法改正案」が5月に成立した。これによって(1)米軍基地および自衛隊基地上空の飛行禁止、(2)オリンピックやラグビーワールドカップ会場上空の飛行禁止が定められ、「サイバー攻撃」や「ドローン捕獲ドローン」などで重要区域にドローンが侵入しないよう阻止されることになる。だが違反した場合の罰則がないため、現実面で有効な手段かどうか疑問視されている。

また日本も、重要施設の上空を規制するだけでなく、中国製ドローン自体を排除する方向で、検討を進めるべきだろう。中国製のドローンが海外の国民全体を「盗撮」できれば、その国の国民の「顔」は撮られ放題。いずれは監視下に置けるという問題が残る。

さらに投資信託やインデックスファンドなどに中国の国有企業が含まれていないかを精査することも、市場関係者には求められている。企業の側も、「短期的利益」に目を奪われて、将来、自国を侵略する可能性のある国の技術の向上に、協力すべきではないのは言うまでもない。

中国は監視技術の積極的な輸出で専制的な政治体制を世界に広げている。これに対して、日米などの西側諸国は、自由で民主的な政治体制を伝えていくことが大切であり、それが中国に対する本当の「相互主義」となる。価値観の戦いが起きていることを認識し、官民全体で早急な対応が求められる時代に入ってきた。

(長華子)

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