会談時に、ホテルの中庭を散策するトランプ氏と金正恩氏。写真:AFP/アフロ

ベトナムのハノイで、2月27日、28日の2日間にわたり、米朝首脳会談が行われた。ベトナムのハノイが選ばれたのは、昨年6月のシンガポールの時と同様、北朝鮮が非核化すれば経済発展をした未来がやってくることを、金正恩・朝鮮労働党委員長に実際に見てもらうためだ。

「完全な非核化」に向けて、北朝鮮はどこまで具体的な措置をとるのかが注目が集まった会談だったが、今回は「非核化の合意」には至らなかった。今後も米朝は交渉を続けていく方針で一致しているという。

合意に至らなかった最大の理由は、北朝鮮が「完全な経済制裁の解除」を求めてきたことにある。つまり、北朝鮮が実質的な譲歩を示さなかったということだ。

外交の原則を貫いたトランプのディール

会談直後に行われたトランプ米大統領とポンペオ米国務長官の記者会見によると、寧辺(ニョンビョン)の核施設廃棄や査察を受け入れる見返りとして、「完全な制裁の解除」を求めてきた。

しかし、寧辺の核施設廃棄が行われたとしても、それ以外のミサイルや核弾頭、高濃縮ウランを生産する未申告の他の核施設などが温存されるため、今回は合意に至ることはふさわしくないと判断したという。

トランプ氏は、「早くやるより、正しいことをしたい」、「いつでも立ち去る準備ができている必要がある」と述べている。

実務者協議では、北朝鮮が寧辺の核施設、東倉里(トンチャンリ)のミサイル実験場、豊渓里(ブンゲリ)の核実験場の廃棄や査察を受け入れるなら、アメリカは見返りとして、相手国への連絡事務所の設置、朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を認めるという路線で進められてきた。

この基本路線を維持しつつ、金氏は「最小限の非核化」によって、最大限の見返りを得られるかどうかの賭けに出た。

今回の会談では、北朝鮮が非核化に向かうための工程表の提示や大陸間弾道ミサイル(ICBM)廃棄の約束を取り付けられるかも焦点だったが、金氏は譲歩する姿勢を見せなかったため、金氏の賭けは失敗に終わったということだろう。

つまりトランプ氏は、外交交渉の基本である「譲歩できない点は守り抜く姿勢を持つ」という原理原則を貫いたということだ。この交渉は、1986年10月にアイスランドのレイキャビクで、当時のレーガン米大統領が、ソ連のゴルバチョフ大統領からミサイル防衛計画の中止を求められた際、退席するだけの精神的な強さをもっていたことに比肩されるだろう。

北朝鮮の「非核化」は楽観視できない

アメリカ側は、今後も交渉を継続するとしている。トランプ政権が期待するように、交渉は進むのだろうか。

この点について、米情報機関トップのダン・コーツ国家情報長官や、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官は、非核化の先行きに厳しい見方を示している。

元航空自衛官で、現在、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で、安全保障学や国際政治を教える河田成治氏も、こう指摘する。

「トランプ氏は昨年の会議では、2020年までに核兵器を放棄させると宣言していました。しかし、北朝鮮が保有する核や関連施設のすべてのリストを渡すかどうかは確証がありませんし、北朝鮮がそのように申告したとしても、それが事実かどうかを検証するには長期間かかります。

また、そのリストを入手し、核を廃棄するとしても、廃棄には、時間もコストもかかります。費用負担は、日本などに求められる見込みですが、合意に基づいた廃棄が必要になるため、10年ぐらいかかる可能性があります。トランプ氏が考えるように、すぐに北朝鮮が合意を履行するか、という点にも疑問が残ります。

北朝鮮は、非核化には合意しているものの、一方では、現在に至るまで、核・ミサイルの増産や配備を進めてきたと見られています。一部、核実験場やミサイルエンジン関連施設の廃棄が報じられましたが、それらは不要で老朽化した施設でしたし、弾道ミサイルと核兵器の実験を停止したことは事実ですが、これらは具体的な非核化が進んでいることとは分けて考える必要があります。

実際に北朝鮮は非核化について、時間は北朝鮮側にとって有利と考えて、まったく急いでいないとみられています。特に北朝鮮は、『終戦宣言』に固執しており、アメリカに体制の安全を保証することを求める姿勢を続けるであろうと思います」

将来的に朝鮮戦争の「終戦宣言」を見返りとして認める可能性も

日本が考慮に入れなければならないのは、米朝の交渉の過程で、トランプ政権が朝鮮戦争の「終戦宣言」を認めるというカードを切ってくる可能性があることだ。

終戦宣言が行われ、「米朝や南北の戦争が終結されたのに、なぜ米軍を中心とする国連軍が駐留するのか」という国際世論が形成された場合には、在韓米軍が撤退せざるを得なくなってくる。

トランプ氏は、選挙期間中より米韓合同軍事演習にかかる多額の費用負担を疑問視しているため、在韓米軍の撤退はすぐにではないとしても、将来行われる可能性は否定できない。

しかもアメリカが北朝鮮に廃棄を迫っているのは、長距離弾道ミサイルであり、昨年6月の米朝首脳会談でも、中距離ミサイル、化学兵器、生物兵器、サイバー部隊などを交渉の議題にしてこなかった。

恒久的な非核化も危うい中、中距離ミサイルを保有し、かつ、在韓米軍の規模が縮小するか撤退すれば、日本の防衛ラインが朝鮮半島の38度線ではなく、対馬海峡に下がる可能性がある。

トランプ氏の意向にかかわらず日本は防衛体制を整えるべき

トランプ氏は、記者会見で経済制裁や軍事的制裁の強化について言及を避けた。今後、アメリカは制裁の強化も視野に入れているはずだ。だが日本はトランプ氏の意向にかかわらず、自国を防衛する体制を整えるべきである。

大川隆法・幸福の科学総裁が2018年4月に収録したトランプ大統領の守護霊霊言において、トランプ氏守護霊も、「自分の国を自分で守らなくてはならない。そうでなければ北朝鮮に支配されてしまう」として、地上のトランプ氏が安倍首相に、日本が憲法9条を改正して、核兵器を装備し、空母を保有するように要求したことを認めている。

アメリカの意向がどうであれ、日本として、北朝鮮の脅威のレベルを自主的に判断して、拉致問題も含めて独自の防衛政策を持たなくてはならない。

(長華子)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『守護霊インタビュー トランプ大統領の決意』 大川隆法著

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