11月1日のトルコ総選挙で、公正発展党(AKP)が大勝し、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が引き続き政権を率いることになった。

欧米メディアによると、選挙結果が出た後、エルドアン氏は、「11月1日の選挙で、『安定』を求める国民の意思が明確になった」とした。

隣接するシリアから混乱が波及しないように苦心するエルドアン氏だが、欧米では、彼が専制的・強権的になりつつある」との批判もある。

トルコの30年戦争

人口の大多数がスンニ派イスラム教徒でありながら、欧米中心の欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、イスラム圏で唯一民主的だと言われて来たトルコで、何が起きているのだろうか。

トルコは30年以上にわたって、自治と独立を求める国内外のクルド人や、クルディスタン労働者党(PKK)などを相手に戦ってきた。

2013年には、両者の間で話し合いが行われ、一時は紛争が終結する気配を見せた。しかし、シリア国内のクルド人たちがイスラム国に襲われた際、トルコが支援の手を差し伸べなかったことで関係がこじれ、紛争が再発。エルドアン氏はイラク国内にあるPKKの基地を爆撃するなど、強攻策に出た。

また、国内では反対派の政治家やマスコミ関係者を、「クーデターを企てた」として拘留している。

反対派は、エルドアン氏が政治的な理由のためにPKKとの紛争を煽り、保守や右翼の支持を固めようとしていると指摘。結果、一部のメディアは、彼をロシアのプーチン大統領と比較し、「専制的」だと批判している。

もしエルドアン氏が「やりすぎた」場合、民主的な国の集まりであるEUやNATOからはじき出されるかもしれない。

波及する中東紛争

ただ、トルコ国民が「安定」を求めていることも事実だろう。

トルコとPKKとの間で上手く行きかけていた交渉が決裂したのは偶然ではない。2013年に台頭し始めたイスラム国や、同時期に起きたシリアの崩壊が、トルコにも影響を及ぼしているのだ。実際、10月には首都アンカラで、イスラム国の仕業と思われる爆撃があり、150人以上が死亡している。

トルコは「シリア難民の流入」「イスラム国の攻撃」「クルド人との紛争」など、多くの問題を抱えており、トルコ国民は「強い」指導者を求めているのだ。

トルコの内政不安も、結局はシリアの紛争に引きずられている側面がある。

このままシリア内戦を放置しておけば、その影響がどこまでも広がっていく可能性がある。

それを防ぐには、アメリカとロシアが協力して事態の沈静化にあたらなければならない。

冷戦の古傷を抱える両国だが、それを乗り越えれば、中東やその他の地域の安定に大きく貢献できるだろう。(中)

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