イギリスのパトリック・サンダーズ少将がこのほど、「イギリスは二度と単独で戦争をしない」「NATOのような大きな機構の一部として行動する」と発言したことを、英デイリー・ミラー紙が報じ、物議を醸している。

同国は2010年から20年までに、陸軍を10万2000人から8万2000人へと、20%もの兵員削減を行う予定だ。海軍や空軍も同様の削減を行っている。

100年ほど前までは超大国として「太陽の沈まない国」と言われていた国だが、いまや、常時戦闘準備が整っている部隊は第3師団のみであり、自前で紛争に対応できるかどうかすら分からない。

大英帝国の凋落

超大国・イギリスの凋落は、最近始まった話ではない。19世紀後半、工業生産力や経済力でアメリカに追い越され、二度の世界大戦で国力を消耗するなど、長い時間をかけて停滞していった。

特に20世紀半ばに起きた、ある事件の影響は大きかった。

第二次大戦から10年ほど経った1956年、エジプトがスエズ運河を国営化した。これに対し、イスラエル、イギリス、フランスの3カ国がエジプトに抗議し、侵略を開始した。特にイギリスにとってスエズ運河は、「アジア地域の植民地と本国をつなぐ生命線」であり、手放すことのできない交通路だった。

米ソに敗れ、軍事大国の転落を内外に示したイギリス

これに異を唱えたのがアメリカとソ連だった。アメリカはエジプトやアラブ諸国がソ連寄りになる可能性を懸念し、ソ連もアラブ諸国に対する影響力を強化したいと考えていたからだ。そのため、米ソ両国とも、反植民地主義感情が強かったエジプトを含むアラブ地域の考えを支持した。

アメリカはイギリスに対して経済・金融面で圧力をかけ、ソ連は攻撃を仕掛けた3カ国に対して核戦争の可能性をちらつかせた。その結果、米ソの圧力に屈する形で、3カ国は撤退した。

後に「第二次中東戦争」や「スエズ危機」などと呼ばれる、この一連の出来事は、イギリスが軍事大国の地位から転落したことを内外に示すものとなった。

ちなみに、イギリスが単独で軍事行動を起こしたのは、1982年のフォークランド紛争が最後だ。

アジアからアメリカを撤退させてはいけない

現代に目を転じれば、「アメリカが世界から撤退する」流れが始まっている。そうなると、今後、スエズ危機と同じようなことが、南シナ海などで起きる可能性がある。

最近、アメリカは4万人もの陸軍兵員の削減を発表した。陸戦中心の中東から、海・空軍が中心となるアジア太平洋地域に主力を移そうとしているのも確かだが、一番の理由は、財政赤字が軍事予算を圧迫しているという認識がアメリカ国内で強くなっているためだ。

これは日本にとって他人事ではない。米中が南シナ海でにらみ合う中、「中国がアメリカを撤退させる」ことが起きないとも限らない。日本にとって、「中東の石油を日本に運ぶ生命線」である南シナ海が、中国の手に落ちることになる。

アメリカが近い将来、「単独で戦争はできないから撤退する」ことを検討した際、日本や東南アジアの国々が「共同で行動できる」ことを示し、アメリカに撤退を思いとどまらせる必要がある。

そのためには、日本は限りなく消極的な集団的自衛権の容認だけでなく、広い意味でのアジアの平和と安定を守れる体制を築かなければいけない。国防力の強化、安保関連の法制度の整備、そして国防を支える経済の発展など、日本は多くの改革を求められている。(中)

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