欧州の難民問題が、欧州連合(EU)の結束に影を落としている。

イギリスはEUを脱退するか?

イギリスは2017年末までに、「EU加盟国であり続けるべきかどうか」を決める国民投票を行う予定だ。

英デイリー・メール紙がこのほど行った世論調査によると、もしこの国民投票が近日中に行われた場合、イギリス人の51%が「EUを脱退すべし」という選択をすることが分かった。欧州で悪化する難民問題を見たイギリス国民の間で、EU懐疑論が日増しに強くなってきているのだ。

ドイツが国境検査を再開

また、今年だけで45万人もの難民を受け入れてきたドイツも、「限界に達した」として、国境検査を再開することを発表した。

EU加盟国はシェンゲン協定により、入国審査なしで国境を越える権利を基に、「国境のないヨーロッパ」を築いてきた。しかし、あまりにも多くの難民が国に流入してくる事態を憂慮したドイツは、シェンゲン協定を一時的に履行停止する決断を下したのだ。

もっとも、シェンゲン協定は「非常事態に国境検査を一時的に再開することも可」とするため、必ずしも協定に違反しているわけではない。

難民問題がEUの結束を弱める

EU各国では、難民の受け入れに反対する右翼団体が台頭し始めている。また、こういった団体に所属しない一般市民の間でも、「国の文化や社会が変わってしまうのではないか」と心配し、難民受け入れを制限したり、EUの脱退を主張する人もいる。

EUはすでにギリシャの財政問題で国家間に大きな溝が存在することを露呈したが、今回の難民問題はその溝をさらに広げることになるかもしれない。

現に、ドイツは他のEU加盟国にもっと難民を受け入れるように要請しているが、特に東欧州の国々は、受け入れを拒否している。

EUはこれまで、国家意識を否定することで「統一された欧州」の理想を掲げてきたが、「難民問題」という「現実」に直面して、その国家意識が少しずつ蘇ろうとしている。EUという文明実験が失敗したことに世界が気付くのは、時間の問題なのかもしれない。

終わりが見えない中東の紛争

難民問題の根本にある中東の紛争は止む気配を見せない。宗派や民族間の融和を基にした解決も、長期的なものであり、目の前の難民問題を解決する糸口にはなりにくい。

トルコや一部の識者の間では、シリア国内に飛行禁止空域などを基にした「安全区域」を設け、アサド政権やイスラム国から難民を守る考えが出ている。これは、湾岸戦争の後、アメリカがイラク国内のクルド人をサダム・フセインから守るためにやったことと似ている。

そのような安全区域に難民を移住させて、彼らの生活を保障するためには、国際社会が一丸となって取り組まなければならない。長年、中東の紛争を手放しにしてきた国際社会だが、地域の安定に尽力すべき時が来ている。(中)

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2015年7月30日付本欄 もう一つの欧州危機は、年60万人の難民

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2015年10月号記事 「親日移民」が日本を救う - 幸福実現党の設計図2025

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