慎重で緻密だが、ミスを恐れるあまり勇気がない―――。受験勉強でつくられるこれらの性質のため、東京大学の卒業生の多くが、大企業や官庁で働くことを目指し、ベンチャー起業家を志す人が少ないと言われてきた。

しかし最近、今までの常識を覆すような、東大卒ベンチャー起業家が次々と誕生しつつある。

8月28日付ウォール・ストリート・ジャーナル電子版は、東大が米シリコンバレーの起業家精神を取り込み、「起業家育成」という新たな領域に足を踏み入れていると報じた。

同記事によると、キャリアとしてベンチャー企業に興味を持つ東大生も増えているという。また大学側も、東大で開発した技術をベンチャー企業にライセンス供与する代わりに、株式を受け取る例が増えている。将来、上場すれば大きな資産となるため、学生の起業を好意的に受け止めるようになってきたという。

現在、東大と関係のあるベンチャー企業は約240社で、そのうち16社が株式を公開している。これら企業の時価総額は約80億ドル(約9700億円)に上るという。

例えば、創立2年目の東大発ベンチャー企業「エルピクセル(LPixel)」は、主に生物系の研究で、大量の画像データから微細な変化を捉えるサービスを提供している。医療現場で細胞の異常を見つけ、ガンの早期発見をしたり、論文の偽造データの発見などに使用できるという。この技術により研究効率が上がり、今まで見過ごされていた発見も出てくる可能性がある(8月26日付日経デジタルヘルス)。

また、昨年10月に設立された東大発ベンチャー企業「プリファード・ネットワークス」も注目を集めている。同社は、人間の脳が学習するようにコンピュータが学習する技術(ディープラーニング技術)を提供。コンピュータ同士で、その学習した経験を共有することもできる。

同社は、トヨタ自動車と共同研究を行うことを発表した。このディープラーニング技術を応用すれば、一つの自動車が衝突を避ける動きを行った場合、その学習内容を他の車に共有し、次の事故を防ぐことも可能となる。

その他にも、NTTやパナソニック、IPS細胞の発見者である山中伸弥教授の研究室などとも実験結果の解析システムの共同研究を開始。同社社長の西川氏は、「グーグルの先を行く技術を狙っている」と語っている(6日付EconomicNews)。

先行する東大発ベンチャー企業が、後発のベンチャー企業を支援する動きも現れている。ミドリムシ(ユーグレナ)の培養を行う東大発ベンチャー「ユーグレナ」は2日、子会社などが運営するファンドから、研究開発型のベンチャー企業への投資を年内に行うことを発表。投資額は1社当たり数千万~2億程度、約10社への投資を行い、総額10億円程度に上る見込みだ。(3日付産経新聞電子版)。

米スタンフォード大では、卒業生や教授陣が立ち上げた企業数は数千社以上に上る。これだけ起業が多い理由は、在学生が起業した卒業生やIT関係者との交流を持つ機会が多いこと。起業家の感化を受け、自らも起業する気になるのだそうだ。

東大は元々、明治時代に役人をつくるための大学という面がある。緻密さや分析能力、専門性などを養成する今までの教育は、優秀なサラリーマンを生むことにも向いていた。しかし今後は、彼らに体系的に起業家精神を身に付けられる教育を施し、日本の優秀な頭脳を経済発展に役立てるべきだ。(泉)

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