高級和牛を世界へ 日本は市場開放を恐れるな
2014.05.11
日本の牛肉の欧州への輸出が開始される見通しとなった。日本からEUへの牛肉輸出をめぐっては、2005年に交渉が開始されたが、「口蹄疫」問題で交渉が滞っていた。昨年3月に交渉が再開され、今年4月に、国内2カ所の食肉処理施設が、輸出に必要なEUの衛生基準を満たし、輸出環境が整った。
日本の牛肉は、霜降りのやわらかい肉質に人気があり、東アジアや米国にはすでに多くの輸出実績がある。以前は、欧州での「和牛」の需要が見込みにくいことから、輸出へ向けた動きは乏しかった。しかし、近年では欧州で和牛の関心が高まりつつあるという。
昨年、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことも影響しているだろう。海外における「日本食レストラン」も増加しており、欧州での店舗数も、06年には約2500店だったが、13年3月には約5500店と倍以上になった(農林水産省推計)。日本政府も、安倍晋三首相とオランド仏大統領とのワーキングランチをはじめ、世界各地でイベントを開催して、日本食や日本の食文化の普及促進を行っている。
一方で、日本の牛肉の価格は、国際的な平均価格の2倍以上と高めだ。日本は、大筋で合意したオーストラリアとの経済連携協定(EPA)や、環太平洋経済連携協定(TPP)など、自由貿易協定を結ぼうとしているが、これによって輸入関税が引き下がり、「価格競争では勝てない国内畜産業は大打撃を受けるのではないか」と危惧する意見もある。
しかし、値段は高くても味が格別な霜降り肉をはじめとする日本の牛肉は、「価格競争の外」にあると言える。日本の食に対する関心が世界的に高まっていることも、輸出の追い風となるだろう。国際市場にさらされたとしても、十分に勝算はある。
また、世界の食の市場規模が、現在の340兆円から、20年には680兆円に倍増するという予想もある(ATカーニー社推計)。そのうえ、日本の一人当たりの国民所得はOECD諸国中17位(2010年度)で、所得水準が日本と同規模以上の国が十数カ国もある。つまり、世界には日本の高級和牛の潜在的な買い手が多くいるということだ。
EPAやTPPなど自由貿易の推進によって、日本は畜産において「輸出大国」となりうる。市場開放を恐れず、むしろチャンスと捉えるべきだ。
(HS政経塾 西邑拓真)
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