【名画座リバティ (9)】戦後80年、敗軍の将の武士道を考える──『日本のいちばん長い日』
2025.08.10
残暑お見舞い申し上げます。
今年も8月15日がめぐってきます。昭和20(1945)年の終戦から80周年。当時を体験した方々が年々、幽冥境を異にし、民族の記憶が風化していくのは万(ばん)やむを得ぬものがあります。されど80年後の今、かの戦争の歴史的意義、教訓そして正しさのあり方は、幸福の科学の仏法真理の光に照らし出されつつあります。
今回は昭和42(1967)年のノンフィクション映画『日本のいちばん長い日』をご紹介します。終戦前日の日本を克明に映像化し、昭和史の勉強になると同時に、一人の軍人の最期を描いています。幸福の科学は本年末、箱根の地に天御祖神(あめのみおやがみ)記念館の落慶を迎えるにあたり、天御祖神の教えの柱である武士道精神を探究しています。本作は真の武士道を考えるうえで参考になる一本でもあります。
(あらすじ)
昭和20年7月27日、連合軍は日本にポツダム宣言を通告。ほどなく広島、長崎に原爆が投下され、そこから数日間、首相・鈴木貫太郎(笠智衆)、陸軍大臣・阿南惟幾(あなみこれちか・三船敏郎)らは宣言受諾の当否について激論を戦わせる。8月14日、御前会議で天皇の聖断を仰ぎ受諾を決定するが、徹底抗戦を主張する陸軍若手将校らはクーデターを謀(はか)り、翌15日正午の玉音放送を阻止せんと宮城事件を起こす──。
原作は、14日正午から15日正午までの24時間を追った半藤一利の同名ノンフィクション本(1965年)です。脚本は『砂の器』の橋本忍。緻密な取材による原作に基づき、刻々と変化する情勢を劇的に描き、単なる娯楽作品を超えた記録的価値のある大作群像劇としてヒットしました。群像劇の中心人物、阿南陸相はポツダム宣言の受諾決定後、日中戦争開始以降148万人の戦死者を出した陸軍の敗軍の将の責を負い、正午の玉音放送を聞くに忍びず15日早朝、官邸で割腹自決を遂げます。享年五十八。
一般に武士道の象徴とみなされている割腹という行為は、真の武士道精神から見て、いかなる意味を持つのでしょうか。大川隆法・幸福の科学総裁の新刊『天御祖神 武士道を語る』に収録されている天御祖神の霊言では、「腹切り」に関し、こう述べられています。
「日本で有名な、首を刎(は)ねられたり腹を切ったりというような作法がね、外国には非常に特徴的なものとして見えているとは思うのだけども、それを、残酷なもの、残虐なものと考えるのではなくて、『魂の本道を踏み外さない』『魂の本道を生き切る』、こういうところに武士道の根本があって、日々、自らの生死(しょうじ)を考える。(中略)ある意味では、確かに、『散り方の美学』も教えたかもしれないとは思う」
阿南陸相は非常な人格者だったそうですが、彼の割腹は「魂の本道を生き切る」ものであったのか。「生き切るより死ぬ」ことを潔しとする考えがそこにあったなら、真の武士道に悖(もと)る亜流の精神に支配された行為であり、阿南氏のために惜しまねばならないでしょう。
それにしても、阿南の役に三船敏郎以上の俳優は考えられません。三船は従軍経験があり、鍛錬された強靭な心身から発する男性的な迫力は帝国軍人の雄を演じて間然する所無く、本作の翌68年に山本五十六、69年には東郷平八郎を演じています。幸福の科学の情報によれば、三船の魂はブルース・リーと同じく、いるか座から来たヒーローとのこと。ある宇宙人が「私たちの星で訓練して、魂だけ地球人に生まれ変わったりすると、すごいパワーを持った人間として出てくることは多いですね」と語っています。興味のある方は『UFOリーディング 激化する光と闇の戦い』をご覧ください。
人間味溢れる見所として、阿南と鈴木首相(笠智衆)のシーンがあります。笠は本作の2年後からは「男はつらいよ」シリーズの御前様の役で親しまれ、もっぱらバイプレーヤーとしての役者人生でしたが、本作の鈴木首相役は大スター三船に一歩も引けをとらぬ名演です。受諾が決定した14日23時過ぎ、阿南は総理大臣室に鈴木を訪ねます。すでに翌朝の割腹を決意していた彼は、ここ数日の会議における自分の強硬さを詫び、持参した到来物の葉巻を首相に差し出し、敬礼をして静かに退出します。見送った首相は、横にいた書記官長に言うともなく独り言のように、ぽつりと言います。
「阿南君は暇乞(いとまご)いに来てくれたんだね」
鈴木には阿南が死ぬことがわかったのです。男と男、サムライとサムライが万感の思いを交し合うこの場面は、割腹の是非は別として一つの「美学」を感じさせます。
本作は戦後70周年の2015年、豪華キャストでリメイクされました。しかし、戦争を実体験した世代のスタッフとキャストによるオリジナルの本作には、リメイク版には決して求め得ない「何か」があります。その何か──時代を超えた普遍性の上に重なる、その時代の人々が生きた史実の一回性の重みとでもいうべきもの──を目撃することができる点に、昔の映画に温故知新で出会う「名画座」の意味がある。筆者はそう感じるのです。
(田中 司)
『日本のいちばん長い日』
- 【スタッフ】
- 監督:岡本喜八 脚本:橋本忍 原作:半藤一利
- 【キャスト】
- 出演:三船敏郎 笠智衆 志村喬ほか
- 【その他】
- 1967年製作 | 157分
DVD、各種映像配信で視聴できます。
【関連書籍】
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