現代の予言者H・G・ウェルズ ─ 恐怖の未来と希望の予言詩

2025.07.29

2025年9月号記事

現代の予言者H・G・ウェルズ

恐怖の未来と希望の予言詩

SFを超えた「現実」を見た作家の、驚異の先見力に迫る。

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優れたSF小説は、しばしば未来の「設計図」や「青写真」になる。

例えば、19世紀に活躍したフランス人作家ジュール・ヴェルヌは、その時代の科学技術から未来を予見した。

『月世界旅行』(1865年)は、巨大な大砲で人間を乗せた砲弾を撃ち出し、人類を月に送る壮大な構想を描いた。このアイデアは大衆のみならず、宇宙を目指す科学者にも受け入れられる。その夢は1世紀後のアポロ計画で実現。米フロリダからの発射、3人の乗組員、海上回収などは、小説と極めてよく似ていた。

また、『海底二万里』(1869年)では、電力が使われ始めたばかりの時代に潜水艦ノーチラス号の物語が描かれた。海水から抽出したナトリウムと水銀で作った電池で動力を供給し、半永久的に駆動するという構想は原子力潜水艦によく似ている。

20世紀に入ると、アイザック・アシモフが『われはロボット』(1950年)で「ロボット工学三原則」を提示する。

これはロボットに対して(1)人間に危害を加えてはならない、(2)人間の命令に服従しなくてはならない、(3)は(1)(2)に反する恐れがない限り、自己を守らなければならない、と定めた原則だ。

現代では、ロボットやAIの軍事利用が懸念され、この原則が注目されている。アシモフの作品は、ロボット技術と倫理の相克を予見していたからだ。

このように、第一級のSF作家は優れた先見力を発揮してきた。その最高峰がハーバート・ジョージ・ウェルズ(1866―1946年)である。

SF文学の開拓者 H・G・ウェルズ

ウェルズは英国のとある雑貨屋に生まれたが、経営難で生活は苦しく、丁稚奉公に出された。その仕事になじめなかった十代のウェルズは、母が過去に勤めた貴族の邸宅の使用人に仕事を変えてもらい、その書庫で聖書や哲学者プラトンの著作などに触れる。

その後、職を転々としながら奨学金を得て科学師範学校へ入学。教職を経験するも病で辞職し、文筆業を志す。『タイム・マシン』『透明人間』『宇宙戦争』などを大ヒットさせ、SF小説の世界を切り拓いた。

ウェルズの天才性は、同じ時代の科学からは想像もつかない新技術や物理法則を考えたところにある。それは、既存の技術が発展した未来を描いたヴェルヌとは対照的だった。

例えば、ウェルズの『月世界最初の人間』(1901年)では、人類は大砲ではなく、反重力物質を用いた球形の乗り物で地球を離脱し、月に到着する。船内で乗組員が無重力空間に漂ったり、地球の6分の1の重力しかない月面で跳躍したりする姿が描き出された。

ウェルズは書くことを通して「未来」を見せ、同時代の常識を打破する作品を数多く送り出したのだ。

※注の特に断りのない『 』は、いずれも 大川隆法著、幸福の科学出版刊。

 

次ページからのポイント(有料記事)

なぜか世界大戦の惨禍が見えていた

22世紀までの未来を描きだす

宇宙時代の到来と未来科学を予見

未来を変える「二つの鍵」

 

 

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