無宗教国家中国から生まれた仏教的宗教映画「西湖畔に生きる」【高間智生氏寄稿】

2024.10.09

全国で公開中

《本記事のポイント》

  • 仏弟子・目蓮による地獄に落ちた母親の救済
  • 中国人が感じ始めている"欲得型物質万能主義"への疑問
  • 現代中国が待ち望む再誕の仏陀とその救い

釈迦の弟子の一人、目連が地獄に堕ちた母親を救う仏教故事「目連救母」をヒントに、現代中国人の心の苦しみと、仏陀の救いを求める切なる願いを描いた宗教的映画。

顧曉剛監督は1988年生まれ。浙江理工大学在学中に映画に目覚め、同時に宗教や哲学に興味を持ち、独自に学んだという。初長編作品となった『春江水暖~しゅんこうすいだん』が、2019年カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品に選ばれ、同年の東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞。最新作である本作を出品した第36回東京国際映画祭で黒澤明賞を歴代最年少で受賞した。

仏弟子目蓮による地獄に落ちた母親の救済

この作品がテーマとしているのは、本来、天国的な世界にいたはずの人間が、地上での生活を縁として欲望にまみれ、地獄に落ちていくという極めて宗教的なものである。

厳しい検閲体制が敷かれた全体主義の無宗教国家中国から、このような霊的な宗教的映画が生まれてくることには驚きを感じざるを得ない。むしろ、最近の日本映画の方が、無宗教的に見えてしまうほどだ。

映画は、中国の浙江省杭州市にある西湖の湖畔に広がる美しい茶畑から始まる。ここで茶摘みをしていた母親が、友人の誘いによってマルチ商法にはまってしまい、金銭欲にまみれて地獄的な生活に落ちていく。

そして、母親を救うべく、息子(名前は目蓮)が自らもマルチ商法のメンバーに加わりながら、その不正を暴き、母親を救済するというのが映画の骨子になっている。

顧曉剛監督は、映画の狙いについて「目蓮は最後、精神的な導きによって母親を救い出します。物質的な救いではなく、信仰の完成によって、お母さんは地獄から抜け出せるのです。だから、いろいろな記号を使って、この寓話を翻訳しなくてはいけませんでした」(パンフレットより)と語っており、今の中国人に宗教や信仰が必要だということを痛感した上で、巧みな比喩を使って映像化している。

深く計算された、ストーリーの構成力には驚くべきものがあり、また、西湖の湖畔に広がる美しい茶畑や、周囲の山々のゆったりとした自然には、かつて中国でその存在が憧れた桃源郷を思わせるものがある。中国人の心象風景の中には、弾圧的な政治が行われている際に、桃源郷へと逃げ込んで幸せな暮らしをしたいという願望があるだろうし、その山水画のような美しさには息を呑む。

中国人が感じ始めている"欲得型物質万能主義"への疑問

映画では地獄が、現代の中国に蔓延するマルチ商法の苦しみとして置き換えられていて、友人の誘いによって健康商品の販売会社のミーティングに参加した母親が洗脳されていく姿が生々しく描かれている。

「私は今までとは違う、私らしい人生を生きるのだ」「必ず私は成功する。金持ちになる」などと集団で繰り返し叫びながら、マルチ商法へと邁進していく姿には、鬼気迫るものがある。そこにあるのはトウ小平以来の改革開放によって、西洋型の利益追求主義を唯一の生きる心の支えとしてきた現代中国の地獄的な様相だ。

大川隆法・幸福の科学総裁の著書『太陽の法』には、「人もうらやむような大会社の社長が、何百人、何千人と、色情地獄、阿修羅地獄、あるいは、畜生道に堕ちているのです。そのことを、あなたがたは知っていますか。生きていたときに、金もうけばかりうまくて、何人もの女性との快楽をむさぼった人間が、快楽のうちに人生をおえた人間が、そのわずか数十年の快楽のために、一体何百年、苦しみという名の代償を支払いつづけているか、あなたがたは知っていますか。地獄は、むかし話や方便ではなくて、実際にあるのです。厳然としてあるのです」と説かれている。

人を踏みにじってでも、自らの金銭欲を満たそうとする、狂ったような物質欲、金銭欲が放置されている現状に対して、中国人が感じている深い疑問。それは、貪りの中に生きた者は、最終的に地獄に落ちるという「縁起の理法」によって氷解していくことだろう。

中国人が待ち望む再誕の仏陀とその救い

また映画の中では、主人公の目蓮が10年前に失踪した父親を探し求め、共に暮らせるようになることを切に願っていることが繰り返し強調されている。この父親は、仏教寺院に入り、蓮の花を彫刻していたことが描かれているが、おそらく、妻子を捨てて出家し、仏教の開祖となった釈尊をイメージしているのだろう。

映画のラストでは、美しい蓮の花畑が長回しで撮影され、仏教の代表的な経典である法華経の世界が息子、目蓮の口から語られる。

大川総裁は著書『仏陀再誕』の中で蓮の花のごとく生きるという例えの意味について、次のように語っている。

この世の中は、いつもいつも転落の危機に満ち満ちているかもしれない。しかし、あなたがたはそのような環境を避けてはならない。あなたがたは、そのような環境から逃れようとしてはならない。そのような、泥沼のなかからも、素晴らしい蓮の華を咲かせよ。それが、あなたがたが今世、我が弟子として生まれたことの意味であるのだ。我はそのように、語り、そして、今も語る。この世の中が、いかに不幸に満ちているとも、いかに苦難に満ちているとも、そのことを言いわけにしてはならない

かつて中国で栄え、そして日本へと伝道された釈尊への信仰と仏教の教え。千年以上の歳月が流れ、苦しみに満ちた無宗教国家となった今も、その後ろ姿と救いの教えを、ひたすらに追い求めている現代中国人の姿を描いたこの映画は、仏陀再誕の地・日本が、中国の人々の希望の未来の実現に対して果たすべき使命の重さを、必死に訴えているように思えてならない。

 

『西湖畔に生きる』

【公開日】
全国で公開中
【スタッフ】
監督:顧曉剛 撮影監督:郭達明 音楽:梅林茂
【キャスト】
出演:呉磊 蒋勤勤ほか
【配給等】
配給:ムヴィオラ
【その他】
2023年製作 | 118分 | 中国

公式サイト https://moviola.jp/seikohan

【関連書籍】

『太陽の法』

大川隆法著 幸福の科学出版

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『仏陀再誕』

大川隆法著 幸福の科学出版

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タグ: 中国  高間智生  仏教  カンヌ国際映画祭  顧曉剛  マルチ商法  欲望  地獄  無宗教 

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